『バッドガイズ』原作は1600万部突破の世界的ベストセラー! Z世代を虜にする理由とは?

『バッドガイズ』世界的ベストセラーの理由

 ドリームワークス製作の劇場アニメーション『バッドガイズ』が、現在公開中だ。動物が擬人化された世界を舞台に、ウルフ、スネーク、ピラニア、シャークなど、動物たちのなかでもとりわけ恐ろしいパブリック・イメージを持った“悪い奴ら”が、逆に良いことをするため奮闘するドタバタ劇を描いた一作だ。

『バッドガイズ(6)』(辰巳出版)

 その映画作品には原作となる、現在16巻、日本では6巻まで発売されている、人気の児童書が存在した。著者は、オーストラリアの元俳優アーロン・ブレイビー。『バッドガイズ』は、世界30カ国でシリーズが累計1600万部以上の売り上げを記録し、ニューヨークタイムズ紙でベストセラーリスト入りを果たしている(参考:https://www.aaronblabey.com/the-bad-guys/)。

 ここでは、そんな児童書『バッドガイズ』が、どんなものなのか、どこに際立った特徴があるのかを紹介していきながら、このヒットが示す意味を考察していきたい。

 映画『バッドガイズ』では、『レザボア・ドッグス』(1992年)や『パルプ・フィクション』(1994年)のような、クエンティン・タランティーノ監督のギャング映画を想起させるシーンがあった。実際に、原作の著者であるブレイビーは自作について、タランティーノを中心とした、さまざまな映画からの影響を認めている。タランティーノといえば、とくに初期作品はフランスや香港、そして日本のギャング、ヤクザ映画を参考に、その愛情がひしひしと感じられる世界を創造していた。

 お互いに「ミスター」を名乗り合い、黒スーツとネクタイを着込んで、コーヒーショップで取りとめのないボーイズトークを繰り広げる、『レザボア・ドッグス』の冒頭シーン。そこで出演者のタランティーノ自身が語っていたほどに際どい話題は、本書にはもちろん存在しないが、そんな世界を子ども向けにアレンジしながら、物語が始まるのだ。

 『レザボア・ドッグス』のハーヴェイ・カイテルやティム・ロス、スティーブ・ブシェミやマイケル・マドセンなどを想起させる、ミスター・ウルフやミスター・スネーク、ミスター・ピラニアやミスター・シャークが集まり、冒頭から何やら悪だくみを始めるのかと思いきや、そこでみんなの取りまとめ役でもあるミスター・ウルフが、妙ことを言い出す。もう悪いことをやめ、「ヒーロークラブ」を結成するのだと。

 1巻から、ミスター・ウルフの様子がおかしいのだ……。目はらんらんと輝き、熱に浮かされたように、ヒーローとして世界を救うことに固執する。読者にとっては、もちろん初めて出会うキャラクターなので、この状態が正常か異常なのかはよく分からないのだが、仲間たちが「こいつヘンだぞ」と言うように、やはりおかしなことになっているのは確かなのだろう。バッドガイズの面々は、そんな狂気をはらんだミスター・ウルフの迫力に流されて、良い行いをしていくはめになるのだ。

 2巻以降、バッドガイズは『ミッション・インポッシブル』(1996年)のCIA本部ように厳重に警備された農園に侵入して救出活動をしたり、国際秘密組織の捜査官とともに、世界征服を狙うマッド・サイエンティストに対峙したり、絶海の孤島や宇宙にまで到達することになる。さまざまな場所で冒険を繰り広げるという意味では、日本の小学生に絶対的な人気のある『かいけつゾロリ』シリーズに近いといえるし、明快で“ユルさ”のある親しみやすい絵柄という部分も共通している。

 そのように考えると本書は、『かいけつゾロリ』がそうであるように、これまで絵本だけを楽しんでいた子どもが、児童文学や漫画、大人向けの小説などへと移行していく“ブリッジ”の機能を果たす側面があるのかもしれない。ただ『かいけつゾロリ』はテキストが主であるのに対して、本書はよりコミックに近い形式であるという違いはある。

 前述したように、本書は映画の魅力を、物語や演出に反映させた内容となっている。それは、著者のアーロン・ブレイビーが俳優として映画、ドラマに出演していた過去と切りはなすことはできないだろう。彼は、2014年、二人の子どもの父親として、家族を養うことができなくなり、俳優としての活動に見切りをつけ、40歳で創作の道へと進んだという。そんな著者の武器は、やはり映画の世界を知っている、という部分である。

 児童書よりも先に、映画やドラマを楽しむ子どもは少なくない。生まれた頃からインターネットや配信で、たくさんの映像作品に触れるデジタルネイティブにとって、本を読む機会は減ってきていると考えられる。だからこそ、本というかたちで得られる知識や経験は貴重なのだ。その意味で、映画のような要素で成り立っている本書は、子どもたちを活字に慣れさせ、ページをめくっていく経験を定着させていくには、最適といえるのではないだろうか。

 興味深いのは、なぜ「バッドガイズ(悪い奴ら)」を主人公としたシリーズが、ここまで支持されることになったのかということだ。もちろん、子ども向けであるのにかかわらず、タランティーノ風の世界観であるというユーモアが、親世代の心をつかむ部分があったことは想像に難くない。だが、本作は児童書である。それ以上に子どもを夢中にしなければ、ベストセラーになるはずもない。

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