【漫画】アリとキリギリス、選ぶべき生き方は? 謎の仮面の男の教えがグッとくる

ーー前にしか進まない時間のなか、思いが受け継がれていくことの美しさを覚えた作品でした。創作のきっかけを教えてください。

佐藤タキタロウ(以下、佐藤):幼いころから漠然と漫画家になりたいと思っていたものの、納得のいく絵が描けずにいました。ただ高校3年生のときに同い年の友達が亡くなってしまったり、それまで仲良くしていた友達と絶交したり、家族の死など、本作を描くきっかけになった出来事がたくさん重なった時期でした。

 その人と二度と会えなくなることを経験するなか、自分の感情を創作によってけりをつけたいと思い、高校時代に本作を描きました。

ーー高校時代の経験が反映されている作品なのですね。

佐藤:自分が産まれたところの近くに銀杏BOYZの峯田和伸氏の出身高校があると言われているのですが、初めて好きになった女の子があまり人に言えないようなことをしているSNSのアカウントを見つけたりなど、まるで銀杏BOYZの歌詞に登場するような、人の死や卑屈な感情が身近にある環境で高校時代を過ごしてきました。

 本作を描くにあたり、街全体に死の匂いが漂っているからこそ人間の生きている匂いがする街の雰囲気を出したいという思いがありました。死の匂いが強いからこそ、登場人物の生きている感じがするという感覚を大事にしたいと考えていましたね。

ーー街の雰囲気を生み出すために工夫したところを教えてください。

佐藤:本作の舞台は盆地という設定です。山に囲まれているからこその閉塞感があり、他の作品を描くなかでも意識していました。空が広く見える場所に立っているはずなのに山や建物に囲まれているからこそ閉塞感が生まれるのだと思います。

 本作に登場する公園は実家近くの公園であり、多くの子どもたちでにぎわう公園でした。公園の周りには子ども連れの方がたくさん住んでいて、いつでも大人が子どもたちを見ているからこそ大きな事件が起こりにくい反面、常に誰かから見られている感覚を感じていました。当時の自分が感じていたストレスを感じてほしいと思いながら本作を描いている節はあると思います。

ーー高校の卒業や本作の制作を経て、心境の変化はありましたか。

佐藤:ありました。高校を卒業したあとも地元の大学に進学しましたが、高校とは異なり色々なところから学生がやってくるため、高校とは雰囲気が異なりました。大学で人と話すなかで、高校時代と同じ場所にいることが信じられませんでしたね。そんな大学生活を過ごすなかで、地元のように帰る場所があることは恵まれているのだと思うようになりました。

 でも僕は自分が感じていた閉塞感と、帰る場所のぬくもりは釣り合ってないと思います。その思いは変わらないですし、本作を読み返す度に変えてはいけない自分の意見だなと思っています。

ーー本作をはじめ佐藤さんの作品には仮面が多く登場しています。その意図は?

佐藤:子どものころから特撮が好きで、仮面は漫画を描くなかでの原点を象徴しています。特撮のなかでも特にスーパー戦隊が好きであり、1990年代に脚本家の小林靖子さんが手掛けた作品からは影響を受けていますね。

 自分にとってスーパー戦隊は弱い存在が5人いて、一緒に成長していきながらヒーロー1人分の仮面の重荷に耐えつつ、人間になっていく物語として感じていました。英雄の資格がないような人が徒党を組んで、英雄としての資格を得ていくまでの過程に興味があります。

ーー今後の活動について教えてください。

佐藤:本来ヒーローが1人で負うような傷を、弱い人たちが力を合わせて覆い隠し、未来がある子どもたちのために負った傷を隠しながら、自身の思いを次の世代に託していく。それがこれからの自分がやっていきたいことです。

 自分の描きたいことを描くために向いているのはおそらく少年誌であると考え、同じテーマで少年誌の対象年齢に近いキャラクターを主人公にした作品をいくつか描いてきました。ただ、これからは『夏の虫』を描いたころに立ち返り、これまでとは違ったキャラクターを主人公に据えて作品を作っていきたいです。

 現在は短編作品を描くことが多いですが、いずれは長編作品を描かせてもらえることを目指していくので、これからも色々な方に読んでいただけたらうれしいと思う限りです。

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