「考察ブームはクイズ当てのようになっている」ブロガー・かんそうが考える「感想」の極意と言語化ブームに思うこと

かんそうが考える「感想」と言語化ブーム

「ネットの文章は一瞬で燃え尽きるマッチのようなもの」。その火を十年以上も絶やさずに読まれ続ける「感想」を書き続けているブロガー・かんそうの新刊『推すな、横に並んで歩け エンタメ感想オール・タイム・ベスト』(内外出版社)が発売された。

 「サイコパス・オブ・ザ・イヤー」、「当て馬ドモホルンリンクル」、「人間の服を着た胸糞」のような、キャッチーな言葉を用いながら、ドラマや音楽をはじめとした全方位的なカルチャーを、批評や考察ではなく「感想」で語る独特の世界観は必読である。

 今回、かんそう氏に初の顔出しとなるインタビューを行った。本作の制作背景を、推し活や考察、言語化ブーム、コンテンツ多すぎ問題、生成AIの文体といった現代的なトピックとともに、かんそう氏が今考えることを聞く。

■使える言葉が変わってきた

――先日は東京・青山ブックセンターで本作のトークショーがありました。普段はトークをあまりされないとのことですが、手応えはいかがでした?

かんそう:大雪で到着が2時間半くらい遅れてしまい、開催できるかどうかの瀬戸際でした(笑)。何とか実施できてよかったです。会場の雰囲気は温かくて、自分でも「思っていたより上手く話せたな」という実感がありました。人前で話すことは乗り気ではないのですが、たまにこういう場があるのもいいのかなと。

――本作には今までに公開した1500本以上の感想からセレクトした記事30本、書き下ろし3本が収録されています。選定はどのようにされたのでしょうか。

かんそう:普段は横書きで書いていますが、本になると縦書きじゃないですか。そうなると、僕の記事はカタカナの羅列や改行が多くて読みづらいんですよ。だから読みづらいものは外すか、修正を加えて「本としての読みやすさ」を目指しました。

――過去の文章を読んで感じることは?

かんそう:10年以上前から書いているので、今読むと恥ずかしい部分も多かったです。でも、それもいいのかなと。修正した部分もありますが、できるだけ当時の空気感を残したまま収録しています。

――物を書く上で、時代の変化を感じることはありますか。

かんそう:使える言葉が変わっていることですね。「男」や「女」などもそうですし、強いワードが使いづらくなりました。笑ってもらえなくなったイメージです。やっぱり推し活ブームもあって、褒めることが前提になっているのではないでしょうか。批判は許さない雰囲気というか。

――文章を書くうえで意識されていることは?

かんそう:他の人と違う視点で書くことを常に意識しています。検索して出てくるような言葉ではなく、そこからいかにズラすか。例えばドラマ『MIU404』の記事では、菅田将暉さん演じる久住のサイコパス性にフォーカスして書きました。そのことについて書いている人はいなかった、というのは着想する上で大事にしています。

■作品を観たときに感じた熱量

――本の中で特にお気に入りのエピソードはありますか。

かんそう:ドラマ『オー!マイ!ボス!恋は別冊で』の間宮祥太朗さんが演じた役について書いた一節です。本人が読んでコメントしてくれたんですよ。2021年のことですが、「今の時代は書いた文章が本人に届き得るんだな」と感じました。尖った言葉で書いていたので、どうなるかと思ったのですが、好意的に受け取っていただいてよかったです。

――それは「感想」だから、ということもあるのでしょうか。仮に「考察」だった場合に嫌がる当事者もいるのではと思います。

かんそう:それはあるかもしれません。最近の「考察ブーム」はクイズ当てのようになっている部分が多いなと感じます。こじつけて、当たるか当たらないかみたいな風潮は正直あまり好きではないですね。

 僕が大事にしたいのは作品を観たときに感じた熱量。考察という方向に行かないよう、自分のなかで意識しています。ただ社会的に感想が下に見られるという実感はありますね。「個人の感想ですみませんが……」という言い訳をよく聞くようになりました。でもズバッと言ってほしいなと思います。

――書籍の後半は書き下ろしの文章で、これまでのかんそうさんになかった異質なトピックを扱っている印象です。

かんそう:「推し」についても書いていますが、正直「推し」という言葉が好きじゃないんです。最近は全肯定で推すことが目的になっているじゃないですか。例えば、音楽だと「推しの楽曲や動画の再生数を回すために、無音にして24時間つけっぱなしにする」とか。そういう行動には虚しさを感じてしまいます。

 相手も人間、自分も人間。本来は上も下もないじゃないですか。俳優やアイドル、アーティストを神格化しすぎると、最後は自分が破滅する気がします。

――かんそうさんは結構ズバズバと作品に対して鋭い言葉を書かれることがありますよね。それは推し文化と距離を取っているからでもある?

かんそう:そうかもしれません。好きなものは「好き」と書けばいいし、好きじゃないものは「好きじゃない」と書けばいいのかなと思います。ただ悪口を言ったり、ただ批判したいわけではないので、そこのバランス感は難しいですね。

 先ほど間宮さんの例を出しましたが、本当は本人に読まれたくないんですよ。見られてないからこそ好き勝手に書けるので。だから「媒体ではない、個人のブログに書く」ということが大きい気がします。もちろん読まれてナンボの人もいると思うので、それを否定するつもりはありません。

■コンテンツ多すぎ問題の対処法

――本書にある「ウォッチリストに殺されないための作品選び」も興味深かったです。言及されている「コンテンツ多すぎ問題」も共感する読者が多いと思います。

かんそう:本当に今はコンテンツが多すぎて、観る速度が追いつかないんですよ。ウォッチリストが溜まる一方で具合が悪いです(笑)。

――読者もそのような方が多いと思います。

かんそう:僕の場合、全部見るのは不可能だと諦めています。その中で好きなアーティストや俳優、監督や脚本家など、自分なりの基準を基に「何を見ないか」を取捨選択することで、作品選びがだいぶやりやすくなると思います。

――コンテンツの増大とともに、言語化を賞賛する風潮に疑問を呈した「ヤバいだけで生活したい」の章が面白かったです。ひと昔前は「ヤバいで片付けるな。それは思考停止だ」と言われたものですが、それが逆転しうる時代なのだなと。

かんそう:もし自分のなかから出てくる言葉が「すごかった」とか「ヤバかった」しかなければ、それでいいと思うんです。書くことがなければ、大きいフォントを使った「ヤバい」だけでページを埋めればいい。「“ヤバい”でいいじゃん」と言いたい。

 言語化の技術を高めることはいいと思うのですが、無理やりにでも言語化するのは少し違う気がしています。

――「ChatGPT」や「Gemini」など生成AIを使ってライティングしている人が増えました。

かんそう:実は一度使おうとしたんですよ。自分の文章を読ませて「こういう感じで書いて」と指示したんです。そうしたら「ワアーー」という文字を何万文字も出てきて、壊れた文章が生成されました(笑)。自分のスタイルで使うには、今のところ当てにならないなという感じです。

■文章が逆襲する

――AIライティング前提になってくると、「正しい文章」よりも、かんそうさんが自称する「怪文」の方がクリエイティブなのでは?

かんそう:「文章術」に縛られるとAIと同じになるでしょうね。僕は「こう書いたらダメだよ」をあえてやっています。

 例えば「句読点までの文字を少なくする」とマニュアルにはありますが、僕はあえて1行をめっちゃ長くしたり、適当な500文字を句読点なしで敷き詰めて、本当に伝えたい4文字を改行してから入れたり。仕事でやるとボツになるので、個人ブログやnoteでしかできないと思いますが(笑)。

――だんだんと文章が読まれづらくなっている中で、映像や音声で発信しないといけないと考えているライターさんも多いようです。

かんそう:一般の人も含めて、みんなポッドキャストをやってますよね。文章が読まれなくなっている空気は僕も感じます。もともと書いていた「はてなブログ」から、noteのメンバーシップに移行したのもアクセス数が全盛期より下がったからなんです。

 noteやXのなかで完結する人ばかりで、外部に移動して読むことが少なくなっているのではないかと思います。結局それも「コンテンツ多すぎ問題」の弊害かもしれません・

――Audibleや音声コンテンツについて思うことはありますか?

かんそう:本やスマホで読むのではなく、「ながら」でコンテンツに触れたい人が多いんだと思います。僕もラジオを「ながら聴き」するんですよ。でも頭に入ってこない。やっぱり時間をとって本を読んだり視聴する時間は必要だと思います。

――今後どんな作品の感想を書いていきたいですか。

かんそう:何を書くかは決めていませんが、コンテンツは溢れているので書く題材には困らないと思います。ポッドキャストもやるか一瞬迷ったんですけど、ちょっと無理かなと。ひとりでやっていると「俺、何やっているんだろう」となるので(笑)。

 音声だと声が出るし、映像だと姿形が出てしまう。それが嫌なんです。文章は情報が抑制されているからこそ逆に自由。音声や映像に文章が逆襲する可能性は十分にあると思いますよ。

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