「ボイステラス6」キーパーソン山中拓也(同姓同名)対談 漫画×音楽×映像を行き来する画期的プロジェクトの行く末

ゲームクリエイターで脚本家の山中拓也(左)とTHE ORAL CIGARETTESの山中拓也(右)

 人生のなかで自分と同姓同名を持つ他人と出会う機会は少ないが、その彼または彼女と一緒にプロジェクトを立ち上げることはもっと少ない。その稀有な例として、THE ORAL CIGARETTESの山中拓也とゲームクリエイターで脚本家の山中拓也は出会い、二次元と三次元を往復する画期的なプロジェクト「ボイステラス6」をスタートさせた。

山中拓也(THE ORAL CIGARETTESの)と山中拓也(ゲームクリエイターで脚本家)によるプロジェクト「ボイステラス6」

 本企画の中心となるのは、現在LINEマンガで連載中のwebコミック。物語はジャンルの違う6人のミュージシャンが、とある謎の施設『ボイステラス』に集められ、自らの得意とするジャンルで音楽バトルを行い、YouTubeの再生回数で競い合い、負けた者は音楽シーンから消されてしまうというものだ。実際に読者がYouTubeで再生した回数が反映され、作品のストーリーが変化していくという画期的な試みとなっている。

現在LINEマンガで連載中のwebコミック『ボイステラス6』

 登場キャラクターの歌声は、ボーカルオーディション「GRAB THE 6」の合格者が担当。山中拓也(ORAL)の率いる楽曲制作やプロデュースを行うギルド的コミュニティ・JOGOによる課題曲のカバーと、アカペラによる自由曲を歌唱した映像をYouTubeにアップロードし審査した。1次審査を突破したのはわずか54名。続いてMY FIRST STORYのHiroが参加した2次審査、SKY-HIが参加した3次審査を経て、最終審査に進んだ14名から最終的に合格者が選ばれた。

ボーカルオーディション「GRAB THE 6」の合格者が登場キャラクターの歌声を担当している。

 各キャラクターに合わせて作られた楽曲は、それぞれ個性的な魅力を放つ。しかし、彼らはひとり、またひとりと脱落していく運命だ。そんなデスゲームを、ふたりの山中拓也はなぜ生み出したのか。出会った経緯から、プロジェクトの狙いと行く末までじっくり語ってくれた。

――まず同姓同名のクリエイターとアーティストがコラボレーションする、ということ自体が奇跡的だと思うのですが、おふたりはどのように出会ったのでしょうか。

山中拓也(ゲームクリエイター・脚本家):もともと僕はゲーム業界の人間でしたが、視聴者参加型音楽プロジェクト『MILGRAM』がきっかけで、アニメや音楽など外の世界に関わるようになりました。それが音楽系のメディアに取り上げられて、THE ORAL CIGARETTESファンの方々に「山中拓也?」と混乱を巻き起こし、最終的に本人に伝わってしまったという(笑)。

山中拓也(THE ORAL CIGARETTES):僕のInstagramやTwitterに「新しいプロジェクトを始めるんですね」というメッセージがたくさん来て。調べたら、こちらの山中拓也さんのことだと理解して、Twitterで「これは俺じゃないです」と説明したのを覚えてます。

――「ボイステラス6」の企画がスタートした経緯を教えてください。

山中拓也(THE ORAL CIGARETTES):新型コロナウイルスが流行り始めた当初、家で「エンタテインメントを作れないかな」と考えていたんです。
それからマネージャーと「現実世界とマンガ、アニメなどの世界をリンクできたら面白いかも」と話していたタイミングで、拓也さんと出会ったんですよ。
彼に脚本を頼んで、山中拓也×山中拓也でやったら面白いかもしれないと思って提案したら「やろうよ」と即答してくれた。

山中拓也(ゲームクリエイター・脚本家):この規模になるとは全く想像していませんでしたね。

山中拓也(THE ORAL CIGARETTES):ですよね(笑)。あとは韓国の音楽に勢いがあることに対する焦りもありました。日本にもクオリティの高いバンドがいるのに、世界に通じていないのが残念で。やはり日本のカルチャーが海外に伝わっていくには、と考えたらアニメですよね。ただ、アニメのタイアップは自分たちで生み出せるものではない。それなら自前で作っちゃおうと。

山中拓也(ゲームクリエイター・脚本家):それからの「そもそも何をする?」という話し合いは割と長い時間をかけました。「お客さんを巻き込みたい」など拓也くんのイメージがあるなかで、僕は「この手法なら実現できる」とか「キャラクター毎に曲がある」、「再生回数で勝敗が決まる」とアイデアを出した覚えがあります。

――名前は同じでも、違う立場のふたりが集ったら見え方やアプローチが随分違ったのではないでしょうか。

山中拓也(ゲームクリエイター・脚本家):もともと僕の主戦場がゲームだったこともあり、お客さんが「はい/いいえ」を選択して進むインタラクティブなものが好きなんですよ。拓也くんが作る音楽でそういう話の展開を作ることができれば、ただ物語を追う以上の意味が出るだろうと。そういったところで理想的な形態を提案できたかなと思っています。

 あと僕は生み出したキャラクターが世間に出て、今まで仲間内でしか呼んでいなかった名前がファンに呼ばれる瞬間が1番好きなんです。その瞬間を拓也くんにも味わってほしかったですね。

山中拓也(THE ORAL CIGARETTES):僕が思いついたのは「日本の音楽シーンを6人のキャラクターで表す」というコンセプトでした。そこにリスペクトだけでなく皮肉も込めたら、誰かにとっても日本のカルチャーを考えるきっかけになるかもしれない、としっくりきましたね。特に思い入れのある曲はなく、全部フラット。このジャンルで自分がカッコいいと思う内容で、かつキャラクターの個性がより濃く出るように心掛けました。

山中拓也(ゲームクリエイター・脚本家):存在しているシーンに対して、アンチテーゼ的というのはお互いに似ていますね。僕も業界に何か抗いたかったんです。

山中拓也(THE ORAL CIGARETTES):批判されるのも慣れてるしね(笑)。

――では日本の文化的な現状について、どうお考えなのでしょう?

山中拓也(THE ORAL CIGARETTES):「アイドル文化」や「推し文化」が中心にあると思います。もちろんポジティブなことでもありますが、僕はこのカラクリを使って皮肉なことをしたかったんですよ。キャラの顔がカッコいい/カワイイ以外の部分を、もっとリスナーに考えてほしいし、逆にそれを否定する人にも何かを考えるきっかけになればと。

山中拓也(ゲームクリエイター・脚本家):音楽に顔とか必要ない、誰が歌っているのかも必要ない、作品単体で好き嫌いを決めればいいというのは、純粋で高潔だと思います。でも人間はそうじゃない。本当に上質でうまいプレイだけが見たければ、甲子園を見る人はいない訳です。ドラマや思想、出身、生まれなどの要素が複雑に絡み合って応援するのが「推し」なのかなと。

――勝敗と背負っている物語のバランスですね。格闘家が注目されるために、強いだけではなく、ドラマや生い立ち、煽りのMCスキルが必要になってくるような。

山中拓也(ゲームクリエイター・脚本家):キャラのバックボーンをしっかり見せれば、共感を生むし、それによって音楽への没入度も変わります。本作なら、実際にボーカルを務めた合格者の子たちの生き様によっても、キャラの見え方が変わってくるはずです。楽曲に興味がある人はキャラクターに愛着があるし、もしかしたらオーディションの合格者が好きかもしれない。色々な人がいて単純な結果にならない、という世の中の縮図をキャラクターとともに描ければ。

山中拓也(THE ORAL CIGARETTES):音楽が何かとつながっていく瞬間を体験してもらえたら嬉しいですね。「このマンガ面白そう」で音楽にたどり着くという経路もあれば、YouTubeで音楽を聴いて「なんだこれ?」となって、マンガにいく逆パターンのルートもある。もともと音楽はそういうものだと思っていました。

――なるほど。

山中拓也(ゲームクリエイター・脚本家):あとは1人の人間から6ジャンルの音楽が出ているので、拓也くんのファンだとしても理屈的には単に自分の好きな音楽をフラットに選択できますよね。

山中拓也(THE ORAL CIGARETTES):メディアが注目したら人気になる「右向け右文化」が、このコンテンツにはない。家で自分で音源を聴いて、マンガをひとりで読んで、自分の中で本当の好きなものを決めるという作業ですから。

 昔から言っていますが、本当に自分が好きなものは、自分自身で決めたほうが人生が豊かになります。だから「自分の好きなものが今後の物語に影響する」という要素はリアルに近いですし、責任も伴ってくる。マンガでそんな感情を起こせるというのは、これまではなかったなと。

――また現在発表された6人6色の各楽曲は、THE ORAL CIGARETTESのイメージとは違うものでした。バンドで音楽を制作している時との違いはありましたか?

山中拓也(THE ORAL CIGARETTES):ずっとORALの音楽を作ってきたので、いつもと違う視点で楽曲を作れることが新鮮でした。プロデュースをするようになってから、自分の出ないキーの歌も作ることができる。ORALじゃ使えないけど良い曲をどうアウトプットするかと模索してきましたが、今はそれぞれのキャラを思い浮かべて、オーディションをして「あの子にはこれを歌ってもらおう」と考えるのが楽しくて。

 「暇があるならORALの曲を作れよ」みたいなことを思う人はいないと思いますが(笑)、この仕事は最終的にTHE ORAL CIGARETTESの歌にも影響すると考えてほしいです。そのクオリティを上げるための作業でもあるので。

 彼らの物語を投影させて自分視点だけじゃない曲の作り方も発見できましたし、音楽だけじゃなく人間的な部分でいえば、シンガーとの関係の作り方も学びになりました。今までORALで表現できなかった自分の血が6人に流れている感じなんです。

――実際にオーディションをやってみていかがでしたか。

山中拓也(THE ORAL CIGARETTES):人の前で歌うというのはどういうことなのかを学んでほしいというのはありましたね。「こんな苦しいこともある、それでもあなたはやる?」と。実際に合格者から夜中に「不安です」と電話をがかかってきたこともあって、朝まで話を聞きましたよ(笑)。でもそれは本当に音楽をやっていく、人前に立つなら絶対に逃れられない部分なんです。

 そういうきっかけ作りを現役の僕らがやっていかないと、シーンはこのまま衰退してしまうと感じていたので、それをサポートできていることが嬉しいです。6人の今の姿や今後の立ち振る舞いを見て、スター性があるなとか、この子は多分やっていけると思ったら、ORALの仲間に加わってもらうかもしれません。

山中拓也(ゲームクリエイター・脚本家):僕もオーディションで受かった/受からなかったを問わず、彼らへの愛着が生まれています。勝ち負けを表現するのは、別に作品の為だったらと思う部分がありましたが、今回はせっかくのチャンスを得た合格者でも、1曲で終わるかもしれない。それを考えると、文字を打つ手が止まるような気持ちでしたね。

 僕の作品のファンはアニメやゲームが好きで、自分で表立って歌おうなんて思わない人の方が比率としては多いはずです。でも僕らが発信したからこそ、勇気を出して参加してくれた子もいるんです。あまり見ない組み合わせだからこそ、新しい出会いやきっかけが誰かに与えられたというのは、今の時点でやって良かったなと感じていることです。

――後から読んでも面白いと思いますが、やっぱりできるだけリアルタイムで楽しむべき作品だなと感じました。

山中拓也(ゲームクリエイター・脚本家):いわゆるデスゲームを主題にした作品では、ひとりずつ脱落して、作品によっては死んでしまう。この形式の場合は、その人を殺したのはお客さんでもありますからね。

山中拓也(THE ORAL CIGARETTES):というよりも、お客さんでしかない。

山中拓也(ゲームクリエイター・脚本家):何なら恥を捨てて「この人の曲をみんな聴いてくれ」と自分たちから発信しはじめてもいいですしね。

――ワンピースで麦わら海賊団の誰かが死ぬかもしれない状況で、それが自分たちの行動で変わると知ったら、みんな相当動きますよね。

山中拓也(ゲームクリエイター・脚本家):確かに。いっぱい投票したらエースが蘇るみたいなのとか(笑)。

――ちなみにシナリオは勝敗によって分岐していくと思いますが、ある程度どうなるかと想定しながら、いくつかの構成を既に考えられていたりするんでしょうか。

山中拓也(ゲームクリエイター・脚本家):ざっくりとはありますが、本当にどうなるかわからないです。

山中拓也(THE ORAL CIGARETTES):これも最初めちゃめちゃ話し合ったんですよね。「決めとかないと間に合わなくない?」と。でも「これは実験だからリアルでやろうよ」、「じゃあ、まあ頑張るか」みたいな(笑)。

山中拓也(ゲームクリエイター・脚本家):僕も「まあ頑張るか」だし、試合ごとに曲を作らなきゃいけないのも……。でも、せっかく理想像みたいなものがあるのに「この処方じゃないとできないから」や「しんどいから」と理由をつけて止めたら、やり切れないですからね。

山中拓也(THE ORAL CIGARETTES):そうですね。そういう意味でもものづくりに参加している気持ちで参加できる。純粋にエンタテインメントとしても楽しんでもらえるし、人によって楽しみ方が全然変わってくると思います。

山中拓也(ゲームクリエイター・脚本家):こいつ負けそうだなという人に肩入れして、物語の展開を大きく変えていくというのもいいのかも。

山中拓也(THE ORAL CIGARETTES):特にルール違反も設けていないので、ハッカーが現れて、いちキャラだけ2000万再生になるということもあるかもしれません(笑)。でも、とにかく何が起こったとしても、結果に忠実に作っていくだけですよ。

●ボイステラス6
▼1st BATTLE音源は公式HPからチェック
https://boisterous6.jp/

▼AUDITION GRAB THE 6
・最終審査映像:https://youtu.be/HVB_5-gGc3I
・ダイジェスト映像:https://youtu.be/QLhfbRsy7KI

▼Teaser
・ティザー映像:https://youtu.be/iIDjXSbTqTM

●LINEマンガ
2022.7.17(Sun)AM0:00〜連載スタート

・LINEマンガ:https://manga.line.me/


●リリース情報
2021.2.3 Digital Release
JOGO「AWAKENING」
Subscription/Download
https://a-sketch-inc.lnk.to/JOGO_AWAKENING

<THE ORAL CIGARETTES INFORMATION>
THE ORAL CIGARETTES オフィシャルHP http://theoralcigarettes.com/
THE ORAL CIGARETTES オフィシャルTwitter  https://twitter.com/oral_official
THE ORAL CIGARETTES オフィシャルYouTube チャンネル https://www.youtube.com/c/THEORALCIGARETTES
THE ORAL CIGARETTES オフィシャルInstagram https://www.instagram.com/the_oral_cigarettes_official/
公式LINEアカウント https://line.me/ti/p/%40oral_official

<ボイステラス6 INFORMATION>
ボイステラス6 オフィシャル HP  https://boisterous6.jp/
ボイステラス6 オフィシャルTwitter  https://twitter.com/boisterous6_jp
ボイステラス6オフィシャルYouTubeチャンネル https://www.youtube.com/c/boisterous6/featured
ボイステラス6オフィシャルInstagram
https://www.instagram.com/boisterous6_jp/

原作:
山中拓也(ゲームクリエイター/脚本家) https://note.com/pug_maniac/n/nb9a54eafab4a
山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)https://twitter.com/OralJOE?

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「識者/著名人」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる