メイド探偵、陰陽師探偵に作家探偵……「令和の新本格ミステリ・カーニバル」が目指すものを考察

「令和の新本格ミステリ・カーニバル」が目指すもの

 こうなると、残る『月灯館殺人事件』もどんな変化球ぶりを見せてくれるか気になるが、物理トリックにこだわった本格ミステリに挑み続ける北山猛邦の作品だけあって、吹雪の山荘に閉じ込められた人たちが、ひとりまたひとりと密室状態で殺害されていくという、王道のど真ん中を行く本格ミステリ作品だ。

 本格ミステリの世界で神とうたわれる作家、天神人が暮らす「月灯館」では、天神の眼鏡にかなったミステリ作家たちが何人も暮らしていて、それぞれに作品を執筆していた。デビューはしたものの2作目以降が書けなかった狐木雨論も、環境を変えることを編集者に勧められ「月灯館」入りを希望したところ認められた。

 そして赴いた「月灯館」で、入居していた作家たちが、天神も含めてシャンデリアから逆さにつるされたり、図書室でバラバラにされたり、屋外のガレージで首を切断されたりして殺されていく惨劇を目撃する。

 中から鍵がかけられていたり、ガレージの周囲の雪に被害者以外の足跡がなかったりして密室状態となっていた事件のトリックを暴く部分が楽しく、過去に出たミステリ小説の描写に見立てられた殺人の真相に迫る部分が奥深い。犯人の口から語られるトリックへのこだわりは、新本格ミステリがムーブメントになり始めた頃にも言われた、やり過ぎにも見えるトリックへの批判を面白さでねじ伏せ、長く続く新本格人気を改めて確認するものだともとれる。

 だからこそ今、改めて「令和の新本格ミステリ・カーニバル」を標榜したのだろう。この3冊にとどまらず、以後も続々と作品を刊行し、新本格ミステリの真価を令和の世に問い直してほしいものだ。

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