メイド探偵、陰陽師探偵に作家探偵……「令和の新本格ミステリ・カーニバル」が目指すものを考察

「令和の新本格ミステリ・カーニバル」が目指すもの

 「令和の新本格ミステリ・カーニバル」と銘打たれ、星海社FICTIONSから3冊のミステリが同時に出た。1冊は吹雪の山荘で起こる連続密室殺人という"古典的"な新本格ミステリだが、残る2冊は秋葉原のメイド喫茶で起こる事件をメイドが解決したり、陰陽師になる修行をしている学生たちが怪事件に挑んだりといったライトな設定。それでも新本格ミステリと銘打たれているのはなぜなのか? そもそも新本格ミステリとは? 読んで答えを探してみた。

 「令和の新本格ミステリ・カーニバル」は、1993年8月に講談社ノベルスで行われた「スーパーミステリ・ビッグ5」の再来だ。綾辻行人や法月綸太郎をデビューさせ、謎解きの面白さで読ませる新本格ムーブメントの基礎を築いた編集者の宇山日出臣を忍ぶ『新本格ミステリはどのように生まれてきたのか?  編集者宇山日出臣追悼文集』(星海社FICTIONS)に、二階堂黎人が寄せた文章「宇山日出臣さんと私」にこうある。

一九九三年八月。〈スーパーミステリ・ビッグ5!〉と銘打ち、麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』、二階堂黎人『聖アウスラ修道院の惨劇』、竹本健治『ウロボロスの偽書』、井上雅彦『竹馬男の犯罪』、黒崎緑『柩の花嫁』が一気に書店に並び、大いに話題になったのだった。
(中略)
何にせよ、宇山さんが仕掛けたこの〈スーパーミステリ・ビッグ5!〉の大成功により、講談社ノベルスの方向性に決定的な変化が生じた。これ以降は、〈新本格〉路線が明確になり、講談社ノベルスの、毎月に刊行における〈新本格〉作品の占める割合がどんどん高くなっていったのである。

 歌野晶午や有栖川有栖も参加していた講談社ノベルスに、京極夏彦が『姑獲鳥の夏』で94年9月に加わり、森博嗣から西尾維新へと続いて盛り上がっていったミステリは、講談社ノベルスも含めた新書サイズの小説レーベルが衰退気味となっても、書籍から文庫からライトノベルから漫画、アニメに至る様々な表現分野に広がって、熱い支持を受けている。

 そんな新本格ミステリの存在を、宇山日出臣の下で編集者として働いた太田克史が立ち上げた星海社FICTIONSで改めて示そうとしたのが、「令和の新本格ミステリ・カーニバル」だ。だから刊行された3冊も、コテコテの謎解き要素にあふれた作品ばかりかというと、そこは30年近いエンターテインメントの変化が取り入れられている。

 まずは戦国武将と同じ名を持つSF作家の柴田勝家による『メイド喫茶探偵黒苺フガシの事件簿』。コロナ禍でメイド喫茶が休業を余儀なくされる中、常連客たちはメイドたちのネット配信を見て、会えない寂しさを埋めていた。「ぼっちー」もそのひとりとして、メイドのマルルちゃんが始めた配信を見ていた時、「ふがし大好き」という人物がメイドを呼び出すコメントを投げたのを見た。

 危害を加える気かも知れないと心配になった「ぼっちー」が、こっそりと待ち合わせ場所に行くと、そこに現れたのは絶世の美女だった。なぜか麩菓子を加えた彼女は黒苺フガシという名でメイド喫茶専門の探偵だと自己紹介。そして「ぼっちー」を引っ張り秋葉原のメイド喫茶で発生した店長殺害事件の現場へと入っていく。

 古書店の店主や女子高生が探偵役を務めて謎解きに挑む昨今でも、メイド喫茶専門で自身もメイドという探偵は珍しい。並の書き手ではメイド喫茶の裏事情にもメイドの心情にも疎いからだが、そこはメイド喫茶通いがテレビ番組で取り上げられた柴田勝家。動機にメイドだからこその習慣なり矜持をしっかり盛り込んだ上で、謎解きを楽しませてくれる。黒苺フガシというキャラも良くシリーズ化を願いたい作品だ。

 続く伊吹亜門の『京都陰陽寮謎解き滅妖帖』は学園が舞台の伝奇バトル。陰陽師の学校に通いながら、依頼を受けて退魔の仕事もこなすところが『呪術廻戦』を思い起こさせる。舞台は京都で、家の御曹司らしい式神使いの九条孔雀、陰陽術を目視できる天眼を持った白峯明日可、笠に仕込んだ刀を使う狩埜師実がメインキャラクター。ある峠道で大学生4人組のうち3人が死に、そのうちのひとりは内蔵を抜かれていた怪事件で原因となった化物を退治し、彼女を振った男に降りかかる呪いを撃退する仕事をこなす。

 まるで伝奇バトルだが、そこは有栖川有栖を送り出した同志社大学ミステリ研究会の出身で、『刀と傘  明治京洛推理帖本格』(東京創元社)が本格ミステリ大賞を受賞した作家。超常的な力が関わっていても、密室での殺人や公衆の面前で毒を盛られる事態に関しては、犯人の可能性があるのは誰かをロジカルに推理して真犯人へと迫る。露わになった真犯人の背後に陰陽師の集団を狙う闇の集団があって、狩埜の家族が惨殺された事件とも関係していそうで、これからの展開が楽しみだ。

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