劇場版公開迫る『メタモルフォーゼの縁側』原作レビュー 高解像度で描かれる“些細な日常”と、変わることの美しさ

『メタモルフォーゼの縁側』原作レビュー

※本稿は漫画『メタモルフォーゼの縁側』最終巻までの内容を含みます。ご注意ください。

<目の前に広がる/おもちゃ箱のような街で/こんなにも変わりたいと/つよく願っているのはなぜ?>

 上記はシンガーソングライター青羊(あめ)によるソロプロジェクト・けものの「めたもるセブン」に登場するフレーズであり、本楽曲がタイトルのモチーフとなった漫画作品が存在する。宝島社「このマンガがすごい! 2019(オンナ編)」1位を獲得し、第22回文化庁メディア芸術祭マンガ部門では新人賞に選ばれた『メタモルフォーゼの縁側』だ。

 6月17日から、本作を原作とした映画の公開が予定されており、芦田愛菜と宮本信子が10年振りに共演することからも注目が集まっている。高い評価を得る本作の映画化に伴い、その魅力を振り返りたい。

些細な出来事が胸に沁みる物語

 夫を亡くし、ひとりで暮らす雪は、75歳の誕生日や夫の三回忌、思い出のある喫茶店の閉店など、知らないうちに過ぎゆく時間の存在を感じていた。そんな雪は1年以上訪れていなかった本屋でとある漫画本に手を伸ばす。その漫画は、BL(ボーイズ・ラブ)を描いた作品であった。

 購入しようと漫画をレジへ出す雪。驚きの表情を浮かべるのは、書店でアルバイトをする女子高生・うらら。雪が出した漫画はうららも購読していた作品であった。BL漫画を共通項として、ふたりは少しずつ関係を築いていくーー。

 活発な雪と静かなうららの交流が描かれる本作は、前述したとおり“少しずつ”物語が進んでいく。例えば1巻「第1話」でふたりは出会うものの、レジで機械的なやりとりしか行わない。店員とお客という立場から解放され、雪とうららとして交流するのは「第3話」あたりからだ。

 商業媒体で連載する漫画において次回以降も継続して作品を読んでもらうため、劇的なオチや次回の物語につながる“引き”を各話の結末に描くケースは多い。本作もKADOKAWAのWebコミック配信サイト『コミックNewtype』で連載していた作品である。

 ただ、本作の結末で描かれるのはふたりで同人誌を購入したことや、携帯電話の壁紙を変更したことなど、些細な出来事ばかりだ。

 少し人見知りで、趣味をひとりで楽しんでいたうららが、漫画を通じて雪と仲良くなっていく。その詳細を作者・鶴谷香央理氏は丁寧に描く。本作は人と人との関係が深まっていく過程に焦点を当て、高い解像度で描いた作品といえるだろう。

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