劇場版公開迫る『メタモルフォーゼの縁側』原作レビュー 高解像度で描かれる“些細な日常”と、変わることの美しさ

『メタモルフォーゼの縁側』原作レビュー

物語のなかで大きく変化するうらら

 雪と知り合い、カフェでお茶をしながら漫画について話し、一緒に同人誌の即売会に訪れることとなるうらら。彼女は物語の終盤でひとつの漫画作品を描き、即売会に出展することとなる。

 作中に登場するBL漫画と比べると、(オブラートに包まず言ってしまうと)うららの作品のクオリティはお粗末なものだ。本作のなかでは漫画を描き上げたうららが漫画家として成功を収める未来が描かれることもなく、あくまでひとつの出来事として、漫画を描き、即売会に出展したエピソードが流れていく。

 しかし漫画を描こうと思ったり、漫画を描いていることをだれかに話したり、通い始めた塾で友だちと本屋を訪れたりーー。物語の終盤で見られるうららの姿は、1巻で描かれるうららの姿とは大きく変化したものとして映る。

 鶴谷氏はインタビュー(https://tvbros.jp/pickup/2021/10/28/17826/)にて、読者の方から寄せられた「これを読んで同人誌即売会に出ようと思いました」という感想が印象に残っていることを話した。うららの変化は、多くの読者に1歩を踏み出すきっかけや勇気を与えたはずだ。

 ただ、本作が与えてくれるものはそれだけではない。

 目標を持つことや自分へのコンプレックスから、“変わりたい”と願う人は多いだろう。しかし変わりたいという前向きな思いは、ときに時間がないと自分を焦らせ、自身を嫌悪する気持ちを生み出してしまう。

 少しずつ変化していく過程と、ふとしたときに気づく大きな変化が描かれた『メタモルフォーゼの縁側』。そんな本作は多くのものが自分の意思とは別に自然と変化すること、またはその美しさを示しているようにも感じるのだ。

 ちなみに本作のタイトルのモチーフとなった楽曲「めたもるセブン」は、以下のフレーズで楽曲が終了する。

<そろそろ自分のこと、愛してみませんか?>

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