宮沢和史が振り返る、沖縄と歩んだ30年 「『島唄』は常に新しい曲のつもりで歌ってきた」

宮沢和史が語る、沖縄と「島唄」

変わりゆく時代の中で、どう生きていくか

——「島唄」の背景、そして、宮沢さんと沖縄音楽の関わりについて、もう少し聞かせてください。宮沢さんはTHE BOOMのボーカリストとして、1989年にデビュー。当初は多くのバンドやアーティストと同じく、欧米の音楽の影響からスタートしたわけですが、おそらく宮沢さんのなかには違和感があったのではないかなと。

宮沢:バンドを組む、音楽をやり始める最初のきっかけはやっぱり、アメリカやイギリスの音楽ですよね。とにかくかっこよかったし、実際に優れていた。だけど自分がプロになったときに、「このままの考えでいいのか?」と自問自答したんです。ロンドンのロックにしてもデトロイトのロックにしても、背景には労働者の嘆き、人種差別などがある。自分にはそういう背景が何もなかったんですよ。ウチはもともと農家で、父親はサラリーマン。つまりメッセージを発するためのモチベーションがなかったわけですが、ないのにあるフリをするほどかっこ悪いことはないなと。

——そこから自分のルーツを探し始めた?

宮沢:そうですね。ただ、僕が生まれ育った山梨県甲府市はひどい空襲にあったので、歴史的な建造物なども少なく、歴史がリセットされているんです。日本らしさ、山梨らしさを掘り起こそうにも、その術がなかなか見つからない。そういう時期に出会ったのが、沖縄民謡だったんです。もちろん自分のものではないんですけれど、そこに自分の感情を置けるような感覚があったし、とにかく美しい音楽ですから、「これは何だ?」という興味が最初にわいたんですよね。当時は登川誠仁さん、嘉手苅林昌さんといった唄者(沖縄民謡の唄い手、三線奏者)の方々がまだご存命で、彼らの演奏がすごかったんです。登川誠仁さんは三線の速弾きも素晴らしくて、民謡の知識、技術に圧倒され、何てかっこいいんだろうと。ビートルズもいいしU2もいいけど、どっちが上とか下という話ではなくて、「どちらもかっこいい」と思えたことが、自分にとってはとても良かったんです。そういう価値観を植え付けてもらったことで、自分が作る音楽も変わりました。その後、ブラジルに興味がわいた時期に、「風になりたい」という曲を作ったのもそう。サンバである一方、借り物ではない日本の歌でもあるという曲が作れたのも、最初に沖縄の音楽と出会ったからだと思います。

——欧米至上主義的価値観から脱却した、と。

宮沢:「白人のロックがいちばんかっこいい」という基準ではなくなった、ということでしょうね。……今思い出したんですけど、以前、南米で日系人のおばあさんと仲良くなって。その方もウチナーンチュだったんですが、僕が出演したラジオ番組を聞いて、「横文字ばっかりで何を言ってるのかわからなかった」と言われたんです。確かに「今回のアルバムのコンセプトは…」なんて言っても、おばあさんの世代にはわからないし、「俺は何をやってるんだ。かっこ悪いな」と思って。適切な日本語を使えばいいものを、わざわざ横文字にして意味を軽くしてしまう傾向は、今もずっと続いてますよね。

——確かに。エビデンスとかコンプライアンスとか……。

宮沢:そうそう(笑)。ちょっと話が逸れましたけど、「欧米の音楽は確かに優れているけど、沖縄のおじい、おばあの音楽もかっこいい」という価値観を与えてくれたことには、本当に感謝ですね。「みんながいいと言っている」とか、「時代的に流行っている」とか、そんなのはどうでもいいと思って活動をしてこられました。そのせいでときどき孤立することもあるけど、まあ、それはそれで。


——現在の日本の音楽シーンを見ると、欧米の価値観やトレンドの影響がさらに強くなっている印象もあります。

宮沢:今の若い世代の音楽は、すごく技術が高いと思うんですよ。歌詞の詰めこみ方だったり、メロディの複雑さもそうですが、すごく進化している。ただ、グローバル化によって、「日本にいる自分」という意識はさらに感じづらくなっているかもしれないですね。豊かな自然から生まれる美意識や踊りの所作、コブシの美しさなどを意識した音楽が、もっとあってもいいのかなと。最近のアーティストでいうと、miletさんの歌はすごくいいなと思います。日本語は日本語らしく歌い、英語のパートは英語の発音もきれい。英語っぽく日本語を歌ったりしないのがいいんですよね。

——世代や時代によって価値観も変化し、音楽のスタイルも常に動き続けているんでしょうね。

宮沢:どういう時代に生まれたか、ということも大きいと思います。世代によって歴史観も違うし、どんなものに影響を受けたかによっても変わってくるので。時代は川のように流れて、止まることなく変化し続けている。そのなかで自分がどう生きるか、という思考や問いかけを、どのように自分の人生に乗せていくかが大事なのだということでしょうね。『沖縄のことを聞かせてください』を読んでくれた方が沖縄に縁のある方であろうとなかろうと、それぞれの場所でそういう思いが伝わってくれるといいなと思います。

書籍情報

■『沖縄のことを聞かせてください』(双葉社)

著:宮沢和史
発売日:2022年04月28日
定価:2,420円 (本体2,200円)
判型:四六判
ISBN 978-4-575-31714-5
https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-31714-5.html

「ヤマトの人間がこの曲を発表していいのだろうか?」

音楽家・宮沢和史が沖縄戦の生存者から聞いた話に衝撃を受け、迷いながらも制作・発表した「島唄」。空前のヒットとなったこの歌は、沖縄の景色と宮沢自身の運命を大きく変えていくことになった。

それから30年、「自分はどんな顔をしてこの歌を歌い、沖縄を語っているのだろう」--その葛藤を抱えながらも沖縄の島々のことを真摯に学び関わり続けた歳月と、音楽家として計り知れない影響を受けたその歴史や文化への思いを今こそ綴る。

また、「自分の目からは見えない沖縄の姿について話を聞き、沖縄のこれまでとこれからを考えたい」と、20代〜90代まで、それぞれの場所で「沖縄」を生きる10人との対談を収録。
日本“復帰”から50年という節目に「沖縄を語る、この先の言葉」を探す、宮沢と沖縄の対話の書。

[エッセイ]
沖縄の「水脈」
「沖縄を歌う言葉」と出会った日
沖縄を知ろうともしなかった僕たちへ
「あんたの音楽こそ帝国主義じゃないのか」
歌に導かれて人と出会ってきた
沖縄民謡への恩返しをしたい
「自分のいなくなった後の世界」を信じて ほか
[対談] ※収録順
具志堅用高(元ボクシング世界王者)
山城知佳子(現代美術家)
大工哲弘(八重山民謡歌手)
又吉直樹(お笑い芸人、作家)
中江裕司(映画監督)
野田隆司(桜坂劇場プロデューサー)
島袋淑子(元ひめゆり学徒隊員・ひめゆり平和祈念資料館前館長)
普天間朝佳(ひめゆり平和祈念資料館館長)
平田大一(演出家)
西由良(「あなたの沖縄 コラムプロジェクト」主宰)

ブックデザイン:加藤賢策・守谷めぐみ(LABORATORIES)
表紙写真:野村恵子

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