オスマン帝国のハレムは本当に「酒池肉林」だったのか? 研究者が語る、謎多き組織の実態

いかがわしい「ハレム」の実態とは?

ハレムや後宮は家族の拡大版

――オスマン帝国がヨーロッパの影響を受けて近代化していった過程は、日本の歴史にも重なる部分があると感じました。

小笠原:そうですね。1908年の青年トルコ革命以降、オスマン王家は象徴的な存在になるのですが、立憲君主制において王家をどう扱うかというテーマは日本にも通じるところがあると思います。天皇家も明治天皇までは側室を有していましたし、徳川将軍家には大奥がありました。

ーー大奥をテーマとした作品は、日本でも人気がありますね。そう考えると、ハレムを再評価しようとする機運が、心情的にも理解できる気がします。

小笠原:よしながふみさんの『大奥』など、フィクションの分野で人気のある題材ですよね。性愛と放蕩のイメージというより、さまざまな制約と責任がある中で、人々がどう振る舞うか、権謀術数をめぐらすところに面白みがあるのでしょう。また、あとがきにも書きましたが、ハレムや後宮は基本的に家族の拡大版なので、誰もが自分を投影してその心情の機微を想像し、身近に感じやすいのかもしれません。

――あとがきの「もともと男女や家族の関係というのは、不確かさに満ちたものだ。この関係に、王族の存続という絶対的な目的のため、極端なまでに合理にもとづいた箍(たが)をはめたのが、ハレムだった」という一文は核心を突いていると感じました。改めて、本書をどのように読んでもらいたいですか。

小笠原:たとえばですが、愛妾とか夫人のランクが基本的に年功序列になっているのは、無用な争いを避けるためだったのだと想像すると、下手に能力主義を導入することの弊害も見えますよね(笑)。ハレムの合理性は長い歴史の中で培われたものなので、そこから現代的な教訓を得ることもできるでしょう。また、ハレムを題材としたフィクションを描くための資料として購入したという方もいらっしゃいます。いろいろな読み方ができると思いますので、本書から「性愛と放蕩」だけではない、複雑で奥深いハレム像を抱いていただけると嬉しいです。

■書籍情報
『ハレム―女官と宦官たちの世界―』
小笠原弘幸/著
1,815円(税込)
発売日:2022/03/24
新潮選書

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