「2~3年後にはまた氷河期が来る」平成ノブシコブシ・徳井健太が語る、お笑いブームの現在地

徳井健太が語る、お笑いの現在地

売れたいっていう気持ちがようやく出てきた


――平成ノブシコブシさんはショートネタブームで世に出ました。そこからお笑いブームが去って、低迷期を経て、今、再びブームの真っ只中ですけど。

徳井:っていうことは、ピンチってことですね。

――ピンチ?

徳井:『ボキャブラ天国』(フジテレビ系)の何年か後にお笑い氷河期が来て、『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)のあとにも同じものが来たってことは、このあと2~3年後にはまた氷河期が来るっていうことなんでしょう。(フジテレビのプロデューサー)片岡飛鳥さんの「9年周期」っていう理論でいえば、あと5年くらいで第7世代の半分は消えるかもしれない。ただ、この仕事をしているとチャンスはピンチだったっていうことが本当に多かったですし、逆に言うとピンチにはチャンスが多かったので、今はYouTubeとかもありますから、みんな、がんばっていくしかないですね。

――また、芸人さんの雰囲気も随分と変わりましたが、今の“みんなでがんばろう”っていう風潮をどう見てますか? 以前はライバル関係的な雰囲気のほうがもっと強かったというか。例えば、昔の『M-1』決勝の優勝者が決まったあとなんて、優勝できなかった芸人さんたちはみなさん、ものすごい形相をしてたじゃないですか。

徳井:そうなんですよねぇ。オズワルドなどが出演した『M-1』終了後にやった配信ライブで、僕とトレンディエンジェルのたかしがMCとして出たんです。そこで、モグライダーが、不利と言われるトップバッターだったのに、それについてむしろトップで盛り上げてやろうと思った、みたいなことを話していて、口には出さなかったけど、僕だったらそうは思わないなって思ったんですよ。シェアの時代とはよく言ったもので、この子たちはみんなでやってる感覚なんだなって。まぁ、今の若手は結構稼げてるから、心に余裕があるのかもしれないですけど。僕らの頃はとにかく金がなくて(売れないと)辛かったですからね。

――確かに劇場だけじゃなく、活躍の場はいろいろとあるっていうのは大きいのかもしれないですね。徳井さんがNSCに入って自分がお笑いの才能がないと思ったように、お笑いを語る上で“才能”という言葉はよく出てきますが、芸人の才能ってなんだと思いますか? 

徳井:たしかに、お笑いの才能って難しいですよね。吉村が最たる例だと思いますけど、その場の「汚れ役」を進んで引き受けて番組を盛り上げていて、あれってやり続けたから今みんなが褒めてくれてるだけで、あいつが30歳でこの世界を辞めてたら絶対に悪口を言われたと思うんですよ。20年やり続けた結果、褒められてる人はいっぱいいる。ジャルジャルだってYouTubeをもしやってなかったら、トガったまま消えていってしまったかもしれない。だから才能とは何かと聞かれて、強いて挙げるとすれば、「続けられること」でしょうか。続けるということは、すなわち生活を捨てるということ。収入がなくても気にしないっていう鈍感ささえ持っていれば、ある程度は面白くなれるんじゃないかなと思います。


――そういう中で、徳井さんは芸人としてのご自身について、今後、考えていることはありますか?

徳井:最近になって、売れたいっていう気持ちがようやく出てきたんですよ。今までは、「売れる」よりも「面白い」と思われたい、特に芸人に嫌われたくないって生きてきたんです。けどまぁ、こうやって考察してそれを本にすると、なんでだよって否定的な意見を言ってくる人もいるじゃないですか。そういう反応を受けるのは僕、初めてで、そうかそうかと思った時に、この中に書いた人たちもそうですけど、芸人には同業者から嫌われる瞬間っていうのがどこかにあって、そこで負けないで走りきったあとに売れるっていう道があるんじゃないかなと。そんなことをふと感じた時に、この本って東野さんが僕に授けてくれたラストチャンスなのかなって。お前、いつまで馴れ合いで芸人やってんねんっていうことなんじゃないかなと思ったんですよね。

――売れたいっていうのを、もう少し具体的に言うと?

徳井:もう1つ上のステージで戦ってみたいっていうんですかね? “はいはい、また徳井がなんか言ってるわ”じゃなくて、“徳井があんなこと言ってたよ!”って、バラエティ番組でMCをやってる人たちがざわざわするくらいのところには登れそうな気もしていて。だったら、登りたいなって思ってます。

――今後も今と変わらず、芸人さんたちへラブレターと届けていくと。

徳井:そうですね。カッコいいシーンを観たら、Twitterでもついつい呟きたくなっちゃいますし、本人にも言いたくなるので。けど、本音としては「言うなよ」って言われたほうがいいですけどね。言うなって言ってるのに、敢えて言ってるほうが面白いし、僕が肯定され出すのはちょっと……サムいじゃないですか(笑)。だから、否定されているほうがいいのかなって。前澤社長のお年玉企画だって全肯定され出したら、やめちゃうかもしれない。賛否を呼ぶからこそ面白いので、僕としてもそういう感じでいられたらありがたいですね。

■書籍情報
『敗北からの芸人論』
徳井健太/著
価格:1,430円(税込)
発売日:2022年2月28日
出版社:新潮社

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