聴こえないはずの音楽が届く……くらもちふさこ『いつもポケットにショパン』の色あせない魅力
目に見えないものを描くことは、『いつもポケットにショパン』という作品において、音をどう描くかということともつながっていると思っています。わたしが初めてこの作品を読んだとき、ショパンのピアノ曲もラフマニノフのピアノ協奏曲もどんな曲かわかってはいませんでしたが、ピアノを演奏しながら麻子の頭にうかぶ記憶のかけらが、聴こえないはずの音楽を届けてくれるかのようです。
ものすごい速さで よみがえる
おばちゃまの手からこぼれるあざやかなキャンディー
ちぐはぐのピンクのリボン
いじめっ子の走りさる足音
“グリコ” “チョコレート” “パイナップル” 遊んだ教会の階段
発表会の待合室で大きなあくび
自分でリピートつけたおわりのない “つきのひかり” (第5巻)
わたしのショパンのイメージは、いつもここに戻っていくような気がしています。