主人公・茂野吾郎よりも過酷な人生？　『MAJOR』佐藤寿也が乗り越えてきた困難

※本稿は『MAJOR』シリーズのネタバレを含みます。

　スポーツ漫画の登場人物が、次々と待ち受ける困難を乗り越える姿に胸を熱くした人は多いだろう。大ヒット野球漫画『MAJOR』の主人公·茂野（本田）吾郎も、父の死や利き腕の故障など、様々な壁にぶつかりながら、読者を鼓舞してきたヒーローのひとりだ。

　しかし、その吾郎に負けず劣らず、常に困難に見舞われ続けた主要キャラクターがいる。吾郎の少年時代からの親友であり、ライバルの佐藤寿也だ。世界的スラッガーとして名を馳せる以前、少年期から彼にどんな出来事が起こったか、振り返ってみたい。

親にグローブを捨てられる

　寿也は『MAJOR』1巻から登場する。当時、小学校受験のため、母親の厳しい監視を受けながら、勉強漬けの日々を送っていた寿也。そんなある日、部屋の窓から壁当てをする吾郎を見ていると、目が会い、キャッチボールに誘われる。

　将来のスラッガーはここで、野球の魅力に目覚めるわけだが、「勉強をサボった」として母親に咎められ、吾郎からもらったグローブを無断で捨てられてしまう。その後、小学4年生時に名門“横浜リトル”のメンバーとして再会した際には、いまは親にも応援してもらっている、と嬉しい報告をしているが、せっかくできた友人と、野球とのつながりを一気に失いかねない、悲しい出来事だった。

家に帰ると家族の姿がない

　リトルリーグ編が終わり、中学3年生になった吾郎と寿也の再会が描かれる。喜ばしいシーンのはずだが、寿也は当時の優しさこそ残しているものの、どこか影を落とした雰囲気になっていた。

　寿也が小学6年生の時、経済的な理由から両親が幼い妹だけを連れて失踪していたことが、その大きな要因だ。優しい祖父母の家に引き取られたものの、寿也を立派に育て上げるため、祖父母は無理をして仕事に復帰。何をしてでもプロ野球選手になり、生活を楽にして、恩に報いたい……そんな健気な思いが、ダークな印象につながっていた。

　ちなみに、家族がいなくなったのは寿也が修学旅行から帰ってきた時である。学校の楽しい行事を終え、家族の顔が恋しくなってきていたなかで、ウキウキしながら帰宅したに違いない。フィクションとはいえ、軽々しく白黒つけられない問題だとは思うが、両親が妹を連れていなくなっている点も、寿也の視点に立っている読者としては、かなり悲しい。彼がグレずに野球に打ち込めたのは、やはり祖父母の愛情の賜物だろう。