『SLAM DUNK』宮城リョータの“強さ”の理由 傑作短編「ピアス」から考察

『SLAM DUNK』リョータが頑張れる理由

山王戦での宮城の強さの秘密とは

 さて、『SLAM DUNK』の登場人物・宮城リョータは、湘北高校バスケットボール部の主要選手6名の中では、唯一の2年生である。ポジションはポイントガード。バスケ選手としてはあまり身長に恵まれているとはいえない体格だが、そのぶんスピードが売りの選手であり、彼が仕掛ける速攻とゲームメイクのセンスは、幾度も湘北チームのピンチを救ってきた。

 たとえば、物語の最後を飾るインターハイ――強豪・山王工業との試合では、いきなり盟友・桜木花道を使った“奇襲”を成功させ、多くの観客の度肝を抜いた(第224話)。また、彼の「スピードと感性」は、安西監督の信頼も厚く、同じ試合で大きく点差を開けられた際にも、ここは「湘北の切り込み隊長」がなんとかするとまで言われている(第236話)。

 他にもこの山王戦での彼の“見せ場”はいろいろとあるが、とりわけ読者の心に残るのは、身体の大きな選手ふたりに阻まれてもなお、「ドリブルこそ チビの生きる道なんだよ!!」と言って果敢に立ち向かっていく姿だろう(第268話)。

 また、個人的には、第244話での、(勢いを失いつつあった)仲間たちに向けた、「流れは 自分たちで もってくるもんだろがよ!!」というセリフも心に残っている。この時、湘北のエース・流川は山王のエース・沢北のマンツーマンのディフェンスに手こずっており、もうひとりのエース・三井は、スタミナ切れでほとんど足が止まっていた。さらには、チームの大黒柱であるキャプテン・赤木も、相手センターの河田に気持ちの上で負けそうになっており、ここは、ゲームメイカーの自分がなんかせねばという想いが強かったのだろう(この時も、桜木花道が宮城の気持ちに応えて、わずかだが流れを変える。また、その他の仲間たちも徐々に、それぞれのやり方でそれぞれの“強さ”を取り戻していく)。

 それにしても、なぜ、ここまで宮城リョータはがんばれるのだろうか。ひとつは、もちろん、バスケが好きだからという単純な理由があるだろう。好きだから、人は一所懸命になれるし、試練を乗り越えて成長することもできる(むろん、これは、敵味方問わず、『SLAM DUNK』に出てくるすべての選手たちについても言えることだろうが)。

 そしてもうひとつ。山王戦(特に後半戦)での宮城の“強さ”の秘密は、実は彼の右の掌(てのひら)に隠されていた。そこには、彼の片思いの相手であるマネージャーの彩子がマジックで書いてくれた、「No.1 ガード」という力強い文字があった。漢(おとこ)なら、これで負けるわけにはいかないだろう。

 ちなみに、残念ながら、ふだんの彩子は、宮城に対して(その気持ちを知っていながら)つれない態度をとることが多い。だが、この場面などをあらためて見てみると、やはり、あの「ピアス」に出てきた少女は、子供の頃の彩子であってほしいと思うのは、私だけではないだろう。そう、宮城のことを誰よりも理解しているのは彩子であり、彼女なりに、彼のことを昔から(?)応援しているのである。

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