グラビアライターが選ぶ、2021年注目の写真集5冊 人生に共感と豊かさを与えてくれる名作がズラリ
個人的に、タレント写真集には、その人の運命を担う力があると感じている。なぜならそれは、”その人の写真”だけで100ページ以上を構成し、”その人の本”として何十年、もしかしたら何百年と残り続ける一冊になるからだ。なぜ彼女が今ここに立っているのか。なぜ彼は今こんな表情をしているのか。当の本人からすれば、特に深い意味はないのかもしれない。けれども、そこには何か必然的な意味が在るような気がするから、妄想を交えながらも、どうにかして深く読もうとしてしまう。そうして勝手に腑に落ちては、共感を覚え、写真集に癒されるのである——。
2021年もたくさんの写真集がリリースされた。そのなかから、筆者が特に印象深いと感じた写真集を順不同で5冊紹介する。
白間美瑠『REBORN』(ヨシモトブックス)/ND CHOW
NMB48といえばグラビアだ。現役メンバーでも、昨年写真集をリリースした上西怜や、今年グラビア活動をスタートさせるやいなや、『週刊ヤングマガジン』で2週連続表紙&巻頭グラビアを務める快挙を達成した本郷柚巴などが大活躍している。しかし、その礎を築きあげたのは1期生の白間美瑠といっても過言ではない。
デビュー当時は12歳の泣き虫少女だった白間美瑠も、グラビアでは大胆なポージングで読者を魅了。その姿は色っぽくありながらも、勇敢ですらあった。さらに2018年、韓国の人気オーディション番組『PRODUCE 48』に出演。デビューメンバーには選ばれなかったものの、白間美瑠が見せた表現力には、間違いなく見る者をドキドキさせるパワーがあった。
そんな白間美瑠は、今年8月、ソロアーティストを目指し、約10年間在籍したNMB48を卒業した。卒業に先駆けて発売された本作は、まさしく白間美瑠のアイドル人生の集大成であり、生まれ変わりを意味するタイトルの通り、これまで培ってきた経験を胸に仕舞い込み、まっさらな気持ちでアーティスト活動に挑む覚悟が写る写真集だった。カメラマン・ND CHOWとの熱い視線の交わしあい。止まらない活力。グラビアは、ある種”その人の現在値”を示すものだと思っているが、その観点からすると、白間美瑠は、NMB48のメンバーとして努力を重ね、その先に夢を描き続ける、在るがままの姿をここに記してくれていることになる。終わりとはじまりの刹那。エネルギーに満ち溢れた美しさ。やっぱり白間美瑠は、勇敢だ。
芹那『Serina』(ワニブックス)/橋本雅司
当然ながら時の流れは、人も街の色も変えていく。だから人は、写真を撮りたくなるのだろう。SDN48解散から約10年。当時グループのセンターを務めていた芹那は、現在36歳になった。SDN48解散後は、数々のバラエティ番組に出演していたため、あの特徴的な声と舌足らずな喋り方が記憶に残っている方も多いのではないだろうか。
時代の流れ、自身の変化。かつての明るさをほのかに残しながらも、アイドル時代には見られることのなかった落ち着きのある表情が胸に響く。本作に広がるは、贅沢な大人の休日。夢に描いた憩いの空間。赤いリップに濡れた肌、白を汚す土。ざらつく舌は、奥に行くほどあたたかそうだ。そうやって、生々しさが生々しく写された写真にのめり込むうちに、芹那の柔らかい心にはじめて触れられた気がした。
生々しさとは矛盾しているようで、まるで幻のような、天使のような神々しさも感じられるのが不思議だ。静かな森のなか、確かな光に包まれ存在する芹那の姿は、肉眼で目撃した瞬間にホロホロと消え入ってしまいそうなほどに儚い。つかみどころがない少女性。成熟した様子とは裏腹に、不意に見え隠れするピュアさは、きっと芹那そのものだ。時が過ぎ、歳を重ね、溶けて出てきた白い砂。大人の魅力を開花させた今がいちばん、純白に輝いて見えたのがとても美しかった。
柏木由紀『Experience』(集英社)/Takeo Dec.
いずれ終わりが来ることに、アイドルの本質があると思っていたが、どうやらそうでもないらしい。現に、AKB48のメンバーになって14年、30歳を迎える柏木由紀は、今もなおアイドルで在り続けている。
柏木由紀のアイドルに対する思いの強さは、ずっと前からよく知られていたことだ。握手会での神対応、テレビ番組出演時の絶妙なタイミングでのウインク。今も昔もいじられキャラなイメージがあるが、魅せる場面では確実にアイドルとして輝いていて、バラエティ番組では、柔らかい笑顔で場を盛り上げている姿に、慕っている後輩が多いことは想像にたやすい。
本作は、写真集でありながら、アイドルとしてベテランの領域に達した柏木由紀がこだわりにこだわり抜いた”アイドルのバイブル”でもある。長く付き合いのある『週刊ヤングジャンプ』グラビアチームで作り上げた、柏木由紀の無垢な今。グラビアとして自然な露出を目指し、ファッショナブルなランジェリーカットにも挑戦。デビュー当時にはなかったゆとりある色気と、ずっと変わらぬ笑顔の形に「やっぱりゆきりんが好きだ」と思わざるを得ない一冊だ。
10年も同じ活動を続けていれば、いい思い出だけではきっとないだろう。けれども、後にも先にも、こんなにアイドルであることを楽しみ尽くしているのは、柏木由紀しかいないはずだ。AKB48の歴代衣装に囲まれたカットに見られる心からの笑顔は、つられて気分がよくなるほどに幸せそうだ。
奥山かずさ『月刊 奥山かずさ・想』(小学館)/桑島智輝
写真は言葉を持たないが、言葉以上の感情を運んでくれることがある。何のセリフもなければ、彼女のこともよく知らない。それなのになぜか、息のあったコミュニケーションがとれている感じがする気持ちよさ……。女優・奥山かずさの『月刊 奥山かずさ・想』は、目の前にいる奥山かずさと密接に想いを伝えあっている感覚に陥る写真集だ。
奥山かずさが写真集をリリースするのは、約1年ぶりだ。中村昇がカメラマンを務めた前作『AIKAGI』(ワニブックス)は、女優としての表現の幅とナチュラルさを感じる写真が印象的だった。しかし、前作から短スパンで制作された本作では、女優の冠を外し、人間・奥山かずさの感情をおおっぴらに開放させているのが伝わってきた。それは、やはり前作の表情とは似て非なるもので、改めて彼女の優しい心に沈んでみたくなった。
自己表現への悩み、迷い。ガッチリこぶしを握っていないと、自分のなかにある正解は、いとも簡単にどこかへ行ってしまう。深いようで浅はかな自分に気づいたときの絶望感。拙さも、不器用さも、全部受け止めてくれる湿地。浮き足立った状態で愛を求めるのは失礼なのかもしれない。一度、涙を見せたら、もっと深いところで繋がれる予感がする。ムンとした空気が描く人間模様に、カーッと打ちひしがれた。