【漫画】亡くなった人を天使にする儀式とは? Twitter漫画『心を込めて心を砕く話』が深い

ーーマンダラとエンを砕いたキャラクターの正体など、作中で隠された部分に惹かれる作品でした。創作のきっかけを教えてください。

ののもとむむむさん(以下、ののもと):『心を込めて心を砕く』は多くの方に見られることを想定していなかった作品でした。マンダラとエンが亡くなり、ふたりは円状のものとなって、天使となるための解脱を行う。そんな世界で意味のあることを行うという現象を描いているだけあり、ある視点から見た世界の説明書のようなものを描いている感覚に近いです。

 こういう作品を描いた理由としては、図鑑を読むことが好きだったこと、高校生の頃に既存のジャンルや構造から逸脱した漫画や小説に魅了されたことが影響していると思います。

ーーののもとさんのなかには、作品の設定や続きの物語は存在しているのですか?

ののもと:存在しています。ただ、本作はあと6ページ描く予定でした。しかし投稿しようと思っていた期日に間に合わず物語を端折ってしまったんです。そこでは以前投稿した短編漫画『天使化した両親と娘の話』と関連したお話を描こうとしていました。

ーー本作の世界について教えてください。

ののもと:人が亡くなると白い円となり、それを崇める国が存在していた。白い円となった人は希望すると天使になることができる。本作はそんな世界の物語です。

 作中で白い円を砕いた子はマンダラとエンの娘であり、アンドロイドです。感情はありませんが、スマホゲームを楽しめるくらいの知能は存在しています。この国では子どもを神に捧げることで莫大なお金を得ることができ、マンダラとエンは経済的な事情から娘を神に捧げてしまいました。

 信心深いふたりにとっては喜ばしいことでもある一方で本人に了解を得ず子どもを売ってしまったという後悔の念もある。そんな茫漠で複雑な世界を見せるひとつの視点として、マンダラとエンは存在しています。

ーー本作のような作品をつくるうえで心がけていることを教えてください。

ののもと:宮沢賢治の『注文の多い料理店』の序文が、自分にとって作品をつくる際のマニュフェストなんです。“どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、わたくしはそのとおりかいたまでです”などの文章から、世界を深堀していく、構造を意識しないふんわりした作品も書いていいんだと気が付きました。

 ただ、構造を逸脱した作品を描き続けてしまった結果として、意図的に構造を踏まえた作品をつくれなくなってしまいました。ロジカルに漫画を描けない自分に気づいたんです。現在、私は商業作家として活動することを目標としているため、改めて既存の構造を学び直さなければいけないと感じています。

 商業的な漫画のように今まで以上に不特定多数の方に見てもらうことを踏まえると、なんの実績がない私がこんなことを言うのも甚だ恐縮なのですが、自分がこれまで描いてきたような、読者に能動的な姿勢を求めてしまう作品は読んでもらえないリスクが大きくなってしまうのかなと思っています。構造を理解しないで漫画作品をつくることは、柱をどこに建てたらいいかわからずに家をつくっているようなものです。なので今はコンクリートを練るところから始めて、漫画という家をつくれるよう勉強しています。

 ただ、再三述べた通りあくまでもこれは私の所感で、作品の良し悪しではありません。構造が破綻されてても作品の強度が強い作品は枚挙に暇がありませんから。ただ諸々の事情で商業を目指して動いてみたらすごく苦しくも得難い経験が出来て、その中で自ずと商業と同人について考えざるを得ない状況ができたと言うことです。

ーーののもとさんが商業作家を目指す理由を教えてください。

ののもと:自分の作品が雑誌という色んな作品がコンパイルされた媒体に載るという体験をしてみたかったからです。またいろんな人が納得できる程の強度をもち、関わる人の責任を背負った作品をつくってみたい。

 すごく暴力的にいえば本作は責任が自分に終始している、自由奔放である意味無責任な作品なんです。ただ予想以上に多くの方から見ていただけていることから、今までもがいたり苦しみながら学んできたことが少しは功を奏しているのかなと思います。何とも進みが遅くて情けない限りですが…。10年ぐらい前に気づいておけばよかったな…。でも10年前に気づいてたらこの漫画は描けていないし、こうしたインタビューをお受けすることもなかったでしょう…。過去を振り返ると眩暈がするので、なるべく前を見ていたいです。

ーー今後の目標について教えてください。

ののもと:漫画の創作活動における商業と同人の違いは、責任にあると思っています。責任をもって動けるか、ある程度自由に動けるか。どちらも柔軟に対応して作品を描き分けることができれば、商業と同人、どちらの作品にも相互効果が生まれるかもしれませんし……。

 沢山の人に受け入れてもらえる漫画と同時に、摩訶不思議で自由奔放な漫画も描き続けたいです。

『心を込めて心を砕く話』と関連する短編漫画『天使化した両親と娘の話』はこちら

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