武田真治が語る、ネガティブをポジティブに変換する方法「“言葉”を書いて“筋トレ”するしかなかった」

武田真治が振り返る、20年前に感じた苦しみ

写真:前康輔

――本作には「もっと偏った方がいい」といった話もありました。特に若いうちは、アイデンティティを模索するなかで、いろんな可能性に手を出したくなるものかと思うのですが、武田さんは、趣味で続けていた筋トレとサックスを仕事にすることで、時間はかかっても、その偏りが何かに繋がると体現されています。そんな武田さんの言葉だからこそ、説得力があるというか。いま、何かを夢中になって続けている人の希望だと感じました。

武田:筋トレ歴20年、サックス歴30年……。歴があるから偉いのではなく、長く続けることで、「個性」を超えて、技術や経験が伴う「特性」になるんだってことなんですよね。特性は、例えばたった1年続けただけの人に取って代わられるようなものじゃない。

 芸能界では、毎年のように新人イケメンタレントが輩出されますが、そのなかで長く生き残る人とそうじゃない人がいる。それは、イケメン自体が技術を伴うものじゃないからでしょうね。重要なのは、プラスアルファとして、どんな特性があるかってことではないでしょうか。だから「もっと偏った方がいい」んです。本作にも書いていますけど、趣味が仕事になると人生はさらに楽しくなりますよ。人生の成功例のひとつだと思います。

――いま、武田さんが強く自分を持てているのは、やはり筋トレとサックス、そして「言葉」を書くことを続けてこられたからでしょうか?

武田:それらの特性を、みなさんに認知していただけたことが大きかったんじゃないですかね。というのも僕は、前著『優雅な肉体が最高の復讐である。』(幻冬舎)を上梓するまで、約15年間、誰にも言わずに筋トレを続けてきました。人知れず続けることが強さだと信じていたし、自分を変えるためにはじめたことだったので、世間に認知してもらう気もなかったんです。むしろ、認知してもらうための努力になった時点で、強さとかけ離れてしまうのでは、という考え方でした。

 それが、2018年にNHKで「筋肉体操」が始まり、その年の大晦日には紅白歌合戦に出場したことで多くのかたに知っていただくことになり、翌年フジテレビのバラエティ番組「芸能界特技王決定戦 TEPPEN」に出させてもらったときは、体重の8割のベンチプレスが109回上がり優勝。その記録が前回の優勝者を大きく上回っていたこともあって、多くのメディアに取り上げていただきました。”自分の強さ”を自分自身で認知したのはその頃で、努力して手に入れたことが他者に認められるって、こんなにも嬉しいんだなぁってことも知りましたね。

――”筋肉キャラ”が認知されるようになって、見える景色も変化したということですか?

武田:楽ですよね。自分を説明してくれる肩書きがあるっていうのは。与えていただいたキャラにあぐらをかいてちゃダメですけれど、分かりやすく自分の特性を広く認識していただけたことはありがたかいことです。

 それに「筋肉体操」で、ポップな形で筋肉を披露できたのは、僕自身の性格にも合っていたように思います。もしドラマや映画でバッキバキに牙を剥いた状態で披露していたら、筋肉を活かした役を一つか二つ演じて終わっていたでしょう。お茶の間には浸透しなかったかも知れません。

――お話を聞かせていただいて、改めて本作は、かつての武田さんと同じように人生に思い悩んでいる人に幅広く刺さる一冊だと感じました。

武田:心の調子を崩してしまっている人は、年代問わず、多くいらっしゃるんだと思います。人生につまずき、そこから立ち直った自分のことを素直に記しておけば、どこかで誰かの役に立てるかもしれない。本作は、そんな思いで執筆させていただきました。もし、自分を見失って孤独を感じている人がいたら、ぜひ本作を手に取ってみてくださいね。そこにはちっぽけだけれど正直な僕がいますから。

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