「幻冬舎plus」編集長・竹村優子が語る、WEBの可能性「すぐ役に立つだけじゃない文章の面白さを伝えたい」
自分たちでできることは自分たちでやる
――書籍の編集を経て、幻冬舎plusを立ち上げる経緯を教えてください。
竹村:2010年くらいからさきほども出てきたPR誌『星星峡』の編集長を担当していたのですが、WEBメディアがどんどん出てくるなかで、PRが書店で無料配布するだけでいいのかなと思ってしまって、行き詰まりを感じるようになったんです。
――PR誌を通して新しい層を取り込むのは難しそうですね。本読みにとっては、いつも書店でもらえて「ラッキー!」みたいな感じですが。
竹村:そうなんです。本読み以外に広げるとなると本当に難しい。紙だけで新しいことをやるのは限界だなと思い、WEBに移行することを提案したんです。すでに「幻冬舎ウェブマガジン」というサイトがあったので、それと『星星峡』を合体させるような形で「幻冬舎plus」を立ち上げたのが、2013年ですね。
――WEBと書籍では勝手が違ったのではないでしょうか。
竹村:全然違いますね。まず時間の進み方が、書籍からすると速すぎるし、逆にWEBの基準だと書籍編集がうまく回らない。いまだに並行させるのは難しいなと思います。
――しかしそのなかでも、幻冬舎大学など、意欲的な取り組みが話題になっています。
竹村:幻冬舎大学は別の者が立ち上げ、社内でトークイベントなどを開催していて、オンラインにしたのはコロナになってからです。配信に関して、社内に詳しい人が誰もいない中、本当に手探りでした。
――今年8月に配信された『宮台真司×上野千鶴子×鈴木涼美「制服少女たちのその後」を語る』を視聴した際に、上野千鶴子さんが「そろそろ時間じゃない?」とかタイムキーパー役までされていて、内容もですが、その部分も面白かったです。
竹村:上野さんと鈴木さんによる『往復書簡 限界から始まる』の刊行記念だったので、担当編集の私が司会で入りましたが、登壇者の方々の場数と鋭さにはまったく及ばないので、本当に緊張しました(笑)。でも本の存在を伝えるには、目に触れる機会を多くする必要があると思うので、とにかく自分たちでできることからコツコツとやっていこうというスタンスです。
好奇心がなくなることへの恐怖心
――ここまで話を聞いていると、竹村さんはずっと新しいことに挑戦し続けていますよね。
竹村:挑戦というより、「自分が飽きないように」という感覚が近いですね。編集者として好奇心がなくなったり、面白いと思えることがなくなったりしたらどうしよう、という恐怖心があるんです。そもそも好奇心がなくなったら、辻田さんのトークショーに行こうとも思わないだろうし、行っても軍歌の本を作ろうとか思わないかもしれない。面白いものに心が反応する状態を維持したくて、多少無理してでも、ちょっとなにか新しいことをやってみてるのかもしれません。
――見城社長を含めて、幻冬舎は新しいことを受け入れてくれますか?
竹村:受け入れてくれますね。というより、新しいことを止められた経験をあまりしたことがないです。今回のこういう取材も、どんどん出ていいですし。
――竹村さんから見て、見城社長はどんな方ですか?
竹村:編集者としてのセンスはずば抜けていて、助けられた経験がたくさんあります。例えば『しらふで生きる 大酒飲みの決断』(町田康)は当初、まったく違うタイトルだったんですよ。それが会議で見城に「このタイトルはよくないんじゃないか?」と再考を迫られ、考え直して、うまくハマったのが『しらふで生きる』でした。それ以外でも、帯のコピーやタイトルについて、見城が言ったことは「なるほどな」というものが多いです。
――やはり敏腕編集者だと。
竹村:そうですね。本当にすごいなと思います。いつも同じフロアにいるので、普通に話しかけたり、直接、LINEしたりもします。それに、幻冬舎には、「実用書」「文庫」「新書」といった専門の部署はないので、企画さえ通せば、編集者はどんなジャンルの本もつくることができます。そういう自由さはありがたいですね。
文章が醸し出す“楽しみ”を伝えたい
――幻冬舎plusをこれからどうしていきたいですか?
竹村:いまの時代、WEB記事で受けるものといえば、芸能とかニュース的な記事だったり、すぐ役に立つ記事だったりすると思うのですが、「幻冬舎plus」はそういう文脈にあまり乗っていないんです。すぐ役に立つだけじゃない文章の面白さを、面白い書き手と作り上げていきたいと思います。面白さの種類は無限にあると思うんですね。文章が醸し出す“楽しみ”を伝えたいです。そこから、紙の本でも電子書籍でも、少しでも長い文章を読む人が増えることにつなげていきたいです。
――WEBでは長い文章は読まれにくい傾向もありますね。
竹村:行間のニュアンスもあまり読んでもらえなくなってますからね。
――小説や人文書なんかは、気持ち良くなるまでに時間がかかったりしますよね。
竹村:そうなんです。心がうごめくまでにエンジンが必要な作品ってありますからね。だからこその余韻も大きい。そういうものが、どんどん伝わりづらい世の中になっているので、幻冬舎plusは、PVを狙うだけではない、そういう部分を大事にしたいなと思っています。
■幻冬舎plus:https://www.gentosha.jp/
■幻冬舎大学:https://www.gentosha.jp/series/gentoshadaigaku/