いまなぜ“大正”ロマンスが人気? 『わたしの幸せな結婚』『煙と蜜』『大正処女御伽話』などヒット作から考察

いま“大正”ロマンスが来ている理由

 令和の現代から100年前の日本が置かれていた、大正時代。その大正がモデルとなった舞台で、男女の強い絆を感じさせるラブロマンスが幾つも描かれており、多くの人気作が生まれている。

 シリーズ累計300万部と、目下の“大正純愛ストーリー”人気をけん引している作品が、顎木あくみによる小説『わたしの幸せな結婚』シリーズだ。実在の日本ではないが、大正時代を思わせる雰囲気の帝都が舞台になっている。

 異能の力で帝を護り、国を支えていた一族の女性を母に持ちながら、能力が発現しなかった美世は、実母を早くに亡くし、継母や継妹から使用人以下の扱いを受けていた。そんな美世に縁談が持ち上がったが、相手は家に来た花嫁候補たちを、3日とおかず叩き出す冷酷無慈悲な人物として知られていた九堂清霞という軍人だった。

 恋の始まりが、学校の先輩に憧れたり、成長した幼馴染みと再会したりといった定番のきかっけとは違って、親同士、家同士の打算を含んだ話し合いだったというところが大正風。相手が軍人というのも現代の日本ではまずない設定だ。見知らぬ相手のところに嫁ぐ不安があり、それが決して評判のよくない人物だという恐怖があるからこそ、その後に待ち受けていた意外な境遇からの純愛ストーリーが、強く心に響くものになるのだろう。

 清霞がこれまでの女性たちと同様に、美世を叩き出していたら物語自体が始まらなかったが、悲惨な境遇におかれても、自分ができることを精一杯にやろうとする美世に、家柄や清霞の美貌が狙いだった他の女性たちとは違うものを感じて、清霞は美世を受け入れる。美世も怪異から国を護る役目を負っている清霞のために、危険を顧みないで自分に秘められていた異能をふるうようになる。

 最新刊『わたしの幸せな結婚 五』では、純愛ストーリーと並行して繰り広げられてきた、異能の力を使って国家を乗っ取ろうと企む勢力との伝奇バトル的なストーリーが本格化する。清霞の身にこれまでにない危機が迫る中、自分の力を振るって最愛の人を救おうと動いたヒロインの活躍が、大正風の舞台に漂う男尊女卑の風潮をぶち壊していく様にシビれる人も多いのではないだろうか。

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