『ブルーピリオド』と『バクマン。』の決定的な違いとは? 主人公たちのスタンスを考察

『ブルーピリオド』『バクマン。』比較

 『ブルーピリオド』と『バクマン。』の共通点を挙げてきたが、ふたつの作品には決定的に異なる点がある。週刊少年ジャンプの三大原則である「友情・努力・勝利」を具現する『バクマン。』に対し、『ブルーピリオド』で際立つのは「友情」ではなく「孤独」だ。

『ブルーピリオド(2)』

 『バクマン。』では真城が同級生である「高木秋人」と共に漫画を執筆し、ときにふたりで学校をさぼったり、コンビを解消するケンカもしながら、二人三脚で同じ夢を目指す。しかし『ブルーピリオド』で描かれる大学受験で求められるのは、己の力で突破すること。そのため八虎は周りの才能ある人物と自分を比較して絶望し、何度も孤独を味わうこととなる。

 八虎の孤独を象徴するエピソードとして、2巻の「【八筆目】受験絵画」が挙げられる。東京藝術大学の文化祭に足を運んだ八虎が出会ったのは、予備校のクラスメイトであり、極めて高い美術の才能をもつ「高橋世田介」。作品を鑑賞し大学合格への思いを強くする八虎に対し、世田介は「なんでも持ってる人が美術(こっち)にくんなよ」「美術じゃなくてもよかったクセに…!」と言葉をぶつける。

俺の絵にもっと説得力があったら
あんなこと言われなかったんだから
悔しい…
悔しいわ マジで…

 世田介の静かな叫びに八虎は涙を流し、文化祭を後にして予備校へ向かう。そして誰もいない教室で、八虎はキャンパスに筆を走らせる。イライラしながら、暴走する自分に恐怖を覚えながら、俺の絵で全員ひれ伏せたいと願いながら。

 もちろん、八虎の友人や所属する美術部の部員や予備校の先生など、彼の受験を応援する人はいる。しかし『ブルーピリオド』では、登場人物が孤独のなかで葛藤や苦悩するシーンがとくに多い。ゆえに感情が溢れ出す表情を目にすることができ、哀しみ、怒り、喜ぶ八虎に対し読者自身も一喜一憂しながら、強烈に感情移入してしまうのだ。

 孤独のなかで走り続ける八虎であるが、哀しみや怒りを熱量に昇華させ、自信がないからこそ何枚でも絵を描く「努力」をする。そして何回も積み上げてきた努力を武器にしながら、合格という名の「勝利」を目指す。そんな八虎の姿は、授業中にネームを描き、放課後に叔父のつかっていた仕事場で漫画づくりに没頭する『バクマン。』の真城や高木の姿とやはり重なるのである。 

 10年以上前に連載を開始した当時から『バクマン。』を読んでいた、真城や高木たちから刺激を得ていたあなたは、「孤独」と「努力」、「勝利」を描いた『ブルーピリオド』から胸が熱を帯びる感覚を抱くだろう。『バクマン。』を読んで漫画家を目指した、勉強や部活に精を出す学校生活を送っていた、ひたむきに夢を追いかけていた、あの頃と同じように。

■あんどうまこと(@andou_ryoubo)
フリーライターとして漫画のコラムや書評を中心に執筆。寮母を務めていた。

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