『Dr.STONE』クロムこそが“科学”の可能性を体現する 世界を動かすのは一握りの天才ではない
稲垣理一郎(原作)とBoichi(作画)が「週刊少年ジャンプ」で連載している『Dr.STONE』(集英社)は、天才少年科学者・石神千空が主人公のサバイバル科学マンガだ。
物語の舞台は謎の光線が世界中に降り注ぎ、全人類が石化して数千年後の世界。石化が解けた千空は、科学の力で人間たちの石化を解除し、科学王国を設立。人類が石化した謎を解き明かすため、科学船ペルセウスに乗って仲間たちと旅に出る。
以下、ネタバレあり。
この第21巻では、第17巻から続くアメリカ大陸編がいよいよ佳境へ。
アメリカの科学王国を治めるDr.ゼノと共闘し、全人類を石化させた光線の発信源のある南米大陸を目指す千空たち。ゼノ奪還を目論むスタンリーたちアメリカチームの猛追を交わし、アマゾンの大密林を抜けて、石化光線の爆心地・マナウスへと辿り着く。
そこにあったのは、山のように積まれた無数の石化装置。数千年前に全世界を覆う光を放った後だったため、全て電池切れとなっていたが、キラキラと輝く石化装置の山は圧巻ので、劇中で言われているように「悍ましくも美しい」敵意そのものだ。
この石化装置を地球に放ったホワイマンは月面にいると思われており、いつ石化光線を再び放ってくるかわからない。石化装置の山が突きつけてくるのは、そんな圧倒的な絶望だが、千空たちは考えることを放棄しない。
「ククク科学キッズ大好物」「ジックリお楽しみの分解タイムといこうじゃねぇか……!!」
絶望的な現実を目の当たりにしてもひるまず、その原因を救命しようと果敢に挑む。何よりそんな絶望的な状況すらも楽しんでいるように見えるのが、千空らしい。
そして、山程の石化装置が空から降ってきても21世紀の人間たちはなぜ直前まで気付かなかったのか? というクロムの疑問をきっかけに、石化装置にはレーダーに映らない機能があることを発見し、クロムの発案で船に石化装置を貼り付け、アメリカチームのレーダーに映らないステルス艦を作り上げてしまう。このあたりの流れは爽快の一言で、ゼノが語るように「エレガント」な展開である。
その後、船の中で石化装置を解体し分析する千空は、石化光線を発生させる電池の役割をダイヤモンドが果たしていることを究明する。石化装置を蘇らせようと考えた千空は、アメリカ本土に残った仲間たちに、ダイヤモンド製造のミッションを託し、ブラジルの都市・アラシャへと向かう。
あらゆるレアメタルが溜まっているアラシャでは、月に向かうロケット製造に必要な金属はもちろんのこと、ダイヤの原石も採れる。ここに「超合金の街」を作ろうと千空は目論む。しかしゼノからのメッセージを受け取ったスタンリーたちもまた、アラシャへと向かっていた。しかし千空はその動きを読んでおり、逆にスタンリーたちに決戦を挑み、奪われた空母・ペルセウスを取り返そうと考えていた。
戦力差は歴然。まともに戦えば千空たちに勝ち目がない。そんな中、石化装置を復活させて、敵味方、全員を石化させた後、遠くに離れていた仲間が石化を解除するという大胆な作戦をクロムが思いつく。石化装置を復活させるためのダイヤ製造に千空たちが苦戦する中、アラシャにはスタンリーたち精鋭部隊が上陸する。
スタンリー率いるアメリカチームが千空の陣取るメデューサの砦を制圧するのが先か? 千空たちが石化装置を復活させるのが先か? 双方の勝利条件が提示されたところで、物語は次巻へと続く。