『Dr.STONE』クロムこそが“科学”の可能性を体現する 世界を動かすのは一握りの天才ではない

『Dr.STONE』クロムが体現する科学の可能性

 アメリカチームとの圧倒的な戦力差を千空たちがひっくり返そうとする姿は「これぞ少年マンガ」という燃える展開だが、科学に根ざした論理的思考をコツコツと積み重ねていく姿は本作ならではのものだ。

 千空たちの発想は大胆だが、結論に至る過程はとても地道なもの。同時に真面目一辺倒でもなく、仲間とワイワイ楽しく議論をしながら謎を解明していくのが『Dr.STONE』の特色で、それが結果的に「科学は楽しい」というメッセージに繋がっている。

 何より状況を左右する「大胆な発想」を思いつくのが、天才科学者の千空でもゼノでもなく、クロムだというのが面白いところで、一見、普通の少年に見えるクロムこそが、科学の可能性を体現しているのだ。

 千空がダイヤモンド製造を依頼した際に、こっちには科学の専門家がいないから無理だと仲間たちは困惑する。しかし千空は「科学は専門家の専売特許じゃねぇ」「誰でもできる」「聖人様だろうが殺人鬼だろうが」「誰がやろうが必ず同じ結果が出る」「それが科学だ」と反論する。

 この言葉を聞いた仲間たちは千空のアドバイスを元に、アルコールとタングステンのフィラメントを使ってダイヤモンドを作るミッションに挑むのだが、これもまたクロムのくだりと同様に、世界を動かすのは一握りの天才ではなく、多くの人々の意思と行動なのだということが描かれている。

 「誰がやろうが必ず同じ結果が出る」という科学に対する千空の考えは『Dr.STONE』という作品の根幹を成す思想だと言えるだろう。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『Dr.STONE』既刊21巻(ジャンプコミックス)
原作:稲垣理一郎
作画:Boichi
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/drstone.html

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