オアシズ 光浦靖子が明かす、留学決断の決め手 「ダメだったら職業を変えようと思ってますよ」

オアシズ 光浦靖子が語る、留学の決め手

 昨年出演した『僕らの時代』(フジテレビ系)にて、カナダへの語学留学が新型コロナウィルス拡大の影響によって延期となり、家なき子兼仕事なき子になったことを告白した光浦靖子。齢90年ともいわれる現代を生きる女性にとって、40代最後に生活環境を変えるという彼女の決断は勇気を与えたのだろう。当時の心境を素直に綴ったエッセイ「留学の話」が『文春オンライン』に掲載されると、瞬く間に話題となった。

 このたび発売された著書『50歳になりまして』(文藝春秋刊)は、現在の心境や身の回りで起こった出来事、人生の後半戦を生きる決意、そして今夏リトライするカナダ留学についてなどが素直でリズミカルな文章で語られた1冊だ。さらに、趣味としている手芸ではプロ級の腕前を持つ光浦がコロナ禍の仲間と会えない時間を有効活用して、自分のために作成した73個のブローチが掲載された『私が作って私がときめく自家発電ブローチ』(同刊)も同時発売された。前編では『50歳になりまして』の執筆についてを中心に、前向きに新しい挑戦に踏み出したいきさつや人生の折り返し地点を迎える率直な気持ち、若手時代からの心境の変化などを聞いた。(タカモトアキ)

書くことで整理された心境

――『50歳になりまして』の「はじめに」に掲載されているエッセイ「留学の話」は昨年、発表された際、大きな話題となりましたね。共感された方が非常に多かった印象です。

光浦靖子(以下、光浦):これくらいの世代ってみなさん、これからどうしようって悩みますよね。私もずーっと考えていました。この仕事は続けたいという意思はあったとしても、永遠に続けられる気配はない。オファーは人からいただくものだし、人気商売だから、意思だけでどうにかなるものじゃないんだって。

――いくつくらいから考えられていたんですか?

光浦:40代に入ってからですね。10年とか20年で年齢はもちろん、自分のキャラクターも変わっていきますし、何より時代によって感覚が変わっていくじゃないですか。時代に自分がフィットするかどうかは賭けのようなもので、20年後に同じものが流行っているかどうかはわからないし、時代にそった好かれる自分になっているかどうかもわからない。40代に入ったときに“あぁ、今の仕事だけで生きていける保証はないし、頑張ってどうにかなるものではないんだな”という気持ちがだんだんリアルになっていったんです。

――本の中に、女性の2人に1人は90歳まで生きると書いてありました。80歳まで生きるとしても、40歳は折り返し地点。0歳から20歳くらいまでは学ぶことも多いですし、勢いに任せて駆け抜けていけるところがあります。一方、40歳から80歳まではしっかりと記憶があって、大人として自立して生きていかなきゃいけない40年間じゃないですか。ふとそう考えたとき、怖くなってしまったことがありまして。

光浦:私も怖くなりましたよ。精一杯、いろんなことをやって出し切ったと思っていたのに、まだ40年以上あるかもしれないの? 人生長すぎる!って。特に50歳以降は、どうしても体力は衰えていく。その状態で、新しくできることは何かあるんだろうかと考えないといけないなって。まぁ、その答えはまだ出ていないんですけれど、ざっくりとこの先も同じことを続けていた場合を考えると、現状から先はだんだんと(仕事が)細くなっていくだけだと気づいたんですよ。そこで、大きく違うことではないし、向かっている方角は変わらないけれど、レーンを1つずらすみたいなことをやってみようと思ったんです。それなら、他の人は気づきもしないだろうし、恥ずかしいことでもないですからね。

――そういう考えから、留学を決意されたんですね。『50歳になりまして』は現在の光浦さんの心境や身近に起こったエピソードを書き下ろした1冊ですが、執筆にあたって気をつけていたのはどんなところですか?

光浦:まずは読みやすいこと、そして笑いがどこかにあることですかね。リズム感もそう。口に出して何回も言いながら書くというのは、(執筆の依頼を受けた)最初の頃からやっていることです。本来の私は言いたいことがたくさんあるので、頭の中にあるものをすべて書き出すと、支離滅裂を羅列したようなものになってしまうんです。もし次に書く機会があるなら、口に出さずに書いてみたいですけどね。

――言葉もすごく素直なので、個人的にはすーっと入ってきました。

光浦:あぁ、本当ですか? 嬉しい。性格の悪さは出ていなかったかな?

――細やかな視点は共感できることのほうが多かったです(笑)。リズム感を大事にするというのは、端的で瞬発力のある面白さや表現を求められるバラエティ番組やラジオなどでの経験が活きているんでしょうね。

光浦:そうでしょうね。この仕事は聴いている人、観ている人が付いていけないと思ってしまったらアウト。興味を持ってもらえるように、オチまで話をわかりやすく持っていかないといけないですから、確かにそういう職業的な癖は影響していると思います。作家さんのように素敵な言葉を紡ぐことができれば支離滅裂でもいいんでしょうけど、私にはできない。だからこそ、リズムだけは最低限、整えたいなっていう、私の真面目なところが出てしまってるというか、ノルマみたいなこととしてやっていました。

――心情や起こった出来事を書き下ろすことによって、改めて感じたことはありましたか。

光浦:いい意味でデトックスできたというか、モヤモヤしていたものが整理できたところはありましたね。自分の中で筋が通っていることばかりなので、書くとすっきりするし、安心してしまうんですけど、整理したことによって今まで抱えていた思いをなきことにしてしまうのはよくないなとも思いつつ……。(自分が信じている)筋はもしかしたら間違っているかもしれないから、疑らないといけないというか。やっぱり何十年も抱えていたもやもやっていうのは、私の中ですごく大事なことだったと思いますから。

――読ませていただいた中で、年齢を重ねると怒ってくれる人がいなくなるというのは確かにそうだなと思いました。光浦さんはそんなとき、率直な意見を求めてSNSをチェックするそうですね。

光浦:毎日観ているわけじゃないですけど、ちょっと見て、結局傷ついて死にたくなったりしています(笑)。私が傷つきやすい性格だから、みんなが気を遣って言わないようにしているのに、言わないことでもっとひどい意見を見て傷ついて、さらに傷つきやすくなってしまっている。これって負のループですよ(笑)。でも、負のループに入っているんだと知っているだけでもいいのかなって。

――自分の現状を冷静に把握することが大事だと。

光浦:そこがわかってないと闇に巻き込まれてしまいますけれど、私は今、こういうサイクルに入っている大変な人なんだ、そういう生き物なんだと思えば、(自分に対しての)愛らしさも感じられるんじゃないかなって思うんですよね。本来、自分のことをずーっと考えているなんて稀なことじゃないですか。世の中には私と同じような性格で、他人の意見を真っ向から受け止めてる人もいるかもしれないですけど、大体の人は仕事が大変だったり、子育ても大変だったりして考える時間がないでしょう? 日々の寝る、食べるっていう生活で精一杯な人もたくさんいますしね。私のように思春期真っ只中からずっと、“なぜ人に好かれないんだろう?”みたいなことを同じテンポで自分のことを考えているなんて、特殊なことなのかもしれないって思うんですよ。みんなはそんな暇がないですからね。

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