宇佐見りん『推し、燃ゆ』が文芸書として8年ぶり首位に 2021年上半期ベストセラーランキング
認知症予防のために買われる児童書!?
児童書では、親子でともに楽しめる、子どもといっしょに大人も読んで学びがあるものに人気が出やすい傾向にある。今年も前年に続きランクインしたキャリア教育本『なぜ僕らが働くのか』がその典型だが、今年は祖父母世代にも役に立つ3世代本がヒットした。
『ぺんたと小春のめんどいまちがいさがし』である。
これはまちがいさがし本なのだが、ネット書店のレビューを覗くと保護者が「娘といっしょにやっています」といったものに混じって60代以上の書き込みがちらほらあり、認知症予防のために取り組んでいることが書かれている。
過去にも「100マス計算が認知症予防に役立つ」といったブームはあったものの、100マス計算はおじいちゃんおばあちゃんと孫がいっしょにやるものではなかった。ひとつの本で3世代で取り組めるものの需要がこれから掘り起こされていくかもしれない。
たとえば『ケーキの切れない非行少年たち』(今年も新書ノンフィクション部門で5位にランクイン)で有名になったコグトレ(コグニティブ・トレーニング)は子どもの認知能力、社会適応のための力を高めるだけでなく、認知症予防にも効果があるらしいし、「認知機能を維持・向上する」ものは子どもとお年寄りにともに刺さるものが作れるのではないか。
下半期も変わらない?
日本のワクチン接種状況を見るかぎり、下半期もこのまま「家で楽しめる娯楽」としてのマンガ、小説など出版関連コンテンツへの流れは続くだろう。
その先はどうか? マンガは毎日定時にチケット配付や「待てば無料」施策を行うマンガアプリのおかげで作品・アプリへのアクセスがユーザーに「習慣付け」されており、コロナが収束しても習慣は簡単には変わらないはずだ。
しかしマンガ以外の出版物は定期的なリテンションが弱く、せっかく本を読むようになった人たちがコロナ明けには離れていってしまいかねない。定期的に作品や情報を読者に届ける機能の弱さは、雑誌が売れなくなって以来の出版界の積年の課題だが、今のうちに対策が生まれることを祈っている。
■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。