「自分にはまだすごい才能が眠っているんじゃないか」 爪切男×せきしろが語る、人生の落としもの

爪切男×せきしろ対談【後編】

せきしろ「理想からかけ離れた人間になってしまいました」

爪切男:そういえば僕には「街に生かされている」という感覚があるんです。いま、中野に住んでいるんですけれど、最近ニュースで話題になった怪しい漢方薬の店があって。昔、そのお店に行ったときに店長に「不老不死の漢方がほしい」って言ったら、「わかった、それであなたはあと何年、生きたいんだ?」って言われたんですよ。「この人はただ者じゃない」って思うと同時に、ああいう返しができる素敵な大人になりたいと思いました。中野という街の懐の深さを知りましたね。せきしろさんも中央線沿線ですよね。

せきしろ:漫画家の天久聖一さんが西荻に住んでいて、「お前も住め」って言われたのがきっかけで、30年くらい中央線沿線に住んでいます。天久さんはもう引っ越していないので、僕だけがずっといる感じです。 爪さんは何年くらい住んでいるんですか。

爪切男:僕は15年くらいですね。当時付き合っていた彼女が「電車が近くを通る線路沿いの部屋に住みたい」と言うので、西武新宿線の新井薬師前駅近くの線路のそばの部屋に住んだんですけれど、まあ地獄でしたよ。うるさいなんてものじゃない(笑)。彼女は彼女で「夢なんてこんなもんだよね」とか言って悟ったような顔してるし。窓を開けたら電車に乗ってる人と目が合う距離なんですから、すごい環境でした。でも、年齢を重ねると、そんな思い出さえも楽しかったと思えてくるから不思議です。そういえば、ピエール瀧さんが何かの本で「中野は40を過ぎる前に出ないといけない街」って書いていたんですけれど、僕がそれを読んだのは41歳でした。手遅れですね(笑)。

せきしろ:僕は街が好きだとか、生かされているという感覚はあまりないのですが、自分から出てくるもの、書いたものにはやっぱり中央線の風景が多い。それでお金もらっているんだから、そういう意味では生かされているのかもしれないです。

爪切男:せきしろさんは先ほど「まだ何かある」と仰っていましたが、明確にやり残していることはありますか?

せきしろ:僕はノンフィクション作家の沢木耕太郎さんが好きなんです。スポーツ雑誌の『Number』に書いている記事とかをよく読んでいて、沢木耕太郎さんみたいに体当たりで取材して書くことに憧れてきたんですけど、実は僕、基本的に取材をしないんですよ。家からもほとんど出ないし、ほとんど真逆のスタイルなんですね。だけど、いまだにすごく憧れがある。だからやり残したことというと、取材ですね(笑)。20歳ぐらいから沢木耕太郎さんに憧れて、「将来はこういう物書きになろう」と思っていたはずなのに、すっかり忘れていました。理想からかけ離れた人間になってしまいましたね(笑)。爪さんのやり残していることは?

爪切男:僕はこの歳になって、ようやくスポーツの団体競技ができるようになったかもしれないんですよ。子供の頃から「チームのために」とか全然思えない性格だったし、人に迷惑をかけるのもイヤだったから、どうしても団体競技が苦手でした。でも最近、ようやく他人のことを思いやれるようになってきた気がするんです。だから、草野球とかやってみたいんですよね。まだボウリングで誰かとペアを組むぐらいが限界かもしれないですけど(笑)。

■書籍情報
『クラスメイトの女子、全員好きでした』
爪切男 著
4月26日発売
定価:1,210円(10%税込)
仕様:四六判ソフトカバー 224ページ
出版社:集英社
購入はこちら:https://yomitai.jp/book/classmate/

『その落とし物は誰かの形見かもしれない』
せきしろ 著
4月5日発売
定価:1,430円(10%税込)
仕様:四六判ソフトカバー 160ページ
出版社:集英社
購入はこちら:https://yomitai.jp/book/otoshimono/

 

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