『おちょやん』ドラマで描かれなかった千代の心情とは? 小説版「初恋編」が伝える、キャラたちの意外な側面

『おちょやん』小説版が伝えるもの

 いよいよ放送終了まで残り1カ月強となったNHK連続テレビ小説『おちょやん』。その小説版の第一巻「初恋編」が3月4日に学研プラスから発売された。

 近年の朝ドラは『エール』も『スカーレット』も『なつぞら』も『まんぷく』も、モデルあるいはヒントとなった実在の人物がいるオリジナルストーリーが多いが、『おちょやん』もまた同様に、「大阪のお母さん」と呼ばれて広く愛された女優・浪花千栄子をモデルに描いたオリジナルの物語だ。

 つまり、原作はなく、これが「小説」のカタチで読める初の試みとなる。作者は、大ヒットドラマ『半沢直樹』や『陸王』『下町ロケット』(すべてTBS系)などの脚本でおなじみの八津弘之。その脚本を底本にして、『レイワ怪談十六夜の夜』(学研プラス)などの著者・三國月々子が青春小説として仕上げている。

 ドラマや映画を観る際、原作の小説や漫画を先に読み、あるいは原作を並行して読みながら映像作品を観る人は多いだろう。朝ドラにおいても、例えば『あさが来た』では原案本の『小説 土佐堀川』を読みながらドラマを比較して観た人も結構いたはず。

 もちろん朝ドラだけでなく、様々なドラマで、放送中あるいは放送後に出版されるノベライズもいろいろあるわけだが、『おちょやん』の場合、小説で読んでみると、ドラマとは少々異なる印象を持つに違いない。

 子どもから大人まで全世代が楽しめる作りになっていることもあり、全体に子どもの頃に読んだ海外児童文学のような雰囲気もある。

 まず序盤で異なる印象を受けるのは、主人公・千代と「クズ父」として大いに話題になった父・テルヲのキャラクターと関係性だ。千代は、口は達者だが、ドラマより雰囲気がだいぶやわらかい。これは「天才子役」とも絶賛された幼少期を演じた毎田暖乃があまりに達者だったことから、より強烈な子の印象になったこともあるだろう。

 テルヲもまた、活字で読むと、酒飲みでロクに働かなくて、頼りなくて、どうしようもない父という点は一緒であるはずなのに、ちょっと弱弱しく、そこまで憎めない印象もある。これもまた、テルヲを演じたトータス松本のパブリックイメージからくる明るさや声のデカさもあって、威勢良く元気に感じられることが影響し、視聴者の憎悪を全身で受け止められる「しっかり憎ませてくれる父」になっているのかもしれない。

 どちらが良いというわけではないが、言っていること・やっていることは同じはずなのに、文字として読む印象と、肉体をともなって役者が演じることで受ける印象の違いを感じられるのは、非常に面白い。

 また、映像として短い時間の中にいっぺんに詰め込まれた情報量の多さに比べ、要所要所の場面をピックアップして、それぞれのキャラクターが浮かび上がるよう、筋道を整えて書き上げられている文字ならではの「わかりやすさ」も小説版にはある。それは例えば、ドラマでは描かれないキャラクターの心情の部分だ。

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