中森明夫が語る、アイドルという存在の怖さ 「輝いてるアイドルには強烈なパワーがある」

中森明夫が語る、アイドルという存在の怖さ 「輝いてるアイドルには強烈なパワーがある」

実写作品に架空のアイドルが出ると、絵空事感が強くなってしまう

--本書にはAKB48、ももクロ、モーニング娘。、Perfumeらの実名が出て来たり、主人公のキャッシーだけでなく、現実のアイドルの名前を少しずらしたキャラクターが多数登場します。

中森:アイドルを物語にするのは難しいんですよね。成功しているのは『ラブライブ!』『アイドルマスター』『アイカツ!』など、ゲームやアニメといった2~2.5次元もの。声優がそのままアイドルをやっています。でも実写ドラマとか実写映画だと、あまり成功している例はないですよね。何で難しいのかなっていうと、やっぱりドラマなどの中に架空のアイドルが出てくると白けるんですよね。何で白けるのかなというと、これは僕の評論家としての考えなんですけど、アイドルというのは女の子がフィクションでアイドルを演じているものなんです。そのアイドルがドラマというフィクションに出て来ると、フィクション内フィクションとなって、絵空事感が強くなってしまう。もし小説の中に全くの架空のアイドルを出したら、それは白けるだろうなって思いました。だからどこか現実とリンクしたところがないと面白くないんじゃないかと。

--それでAKB48とよく似た、代々木を拠点とするYYG24を主軸とする物語にされたんですね。

中森:そうですね。AKBのない世界、というのを考えたんですよ。AKBはないんだけどAKBによく似たグループがある平行世界ですよね。山手線で言うと秋葉原のちょうど反対側に代々木を拠点にしたグループ。代々木って不思議な場所ですよね。山手線だと新宿、代々木、原宿、渋谷っていう順番で、新宿、渋谷、原宿っていうのは、地方の人でもイメージできる。じゃあ代々木って何かっていうと、共産党と予備校とアニメーション学院の街だなって思ったんです。赤い旗の反対側に青い旗のYYGの劇場が建っているのが面白いなと。

--中森さん自身も「中森明彦」として狂言回し的な存在として出てきますね。僕の著作『グループアイドル進化論』も少しタイトルが変わって、岡田紳士+岡島康宏共著『グループアイドル新時代論』として出て来たのには驚きました。

中森:僕がバイブルにしてる本だからね(笑)。それに敬意を表しました。他にも「さやわか」ならぬ「さわやか」の『YYG商法とは何だったのか』っていう本も出したんだけど、本編が長くなり過ぎたから残念ながら削っちゃった。

--AKBがいない世界にも関わらず前田敦子が登場するシーンは時空が歪んだ感じがして、引き込まれました。

指原さんにとっては“アイドル”というものが信仰する宗教になっている

--中森さんにとって指原莉乃というアイドルはやはり大きな存在なのでしょうか?

中森:2013年のAKB48の選抜総選挙でトップになり、2015年から3連覇されてます。その間の2014年に僕が総選挙の公式ガイドブックで「指原を退治せよ」と発言したら、ファンの人からすごい批判されたんですよ。僕のツイッター・アカウントに「ブタ野郎!」の猛攻撃で(笑)。本人も1年経って「去年のことを思い返すと怖いだけなんです。知らない評論家?のおじさんに指原退治って言われたり」とツイートして。そのエピソードも小説には生かしています。実際にちゃんとお話をしたことはないんですが、大きな存在ですよね。アイドルの歴史にとって非常に重要な存在だと思います。しかもまだ現在進行形で、AKBグループは卒業したけど、今でもイコラブ(=LOVE)など、アイドルグループをプロデュースしていたり、ポスト秋元康的な存在ですよね。タレントとしても、卒業して何年も経っているにも関わらず、テレビで毎日のように顔を見る超売れっ子です。

--指原さんは元はアイドルファン側にいた、ということが強いと思います。アイドルオタクであるというバックボーンがある。

中森:指原さんのご著者やインタビューを読むと、アイドルというものがなければ生きて来られなかった人なのかな、と思いました。僕の小説の中では、わりと宗教を絡めてアイドルを描いてるんですよ。日本のアイドルの原点が天照大神だっていうこととかね。アイドルは直訳すると「偶像」で、教会のキリストの像とか、日本で言うとお地蔵さんの像とか、そういうものに近いと思うんですよね。指原さんにとっては“アイドル”というものが信仰する宗教のようなものになっているんじゃないかと。それと、宗教とアイドルという観点で言えば、これまでに最も売れたアイドルの物語って何かって考えると、聖書じゃないですか。聖書はキリスト自身が書いたわけじゃない。ソクラテスやブッダ、孔子も自分では本を書かないんですよ。だから僕は、小説という架空の世界の中で、アイドルというその世界の救世主について、書いてみたっていうことなんです。

“接触”を中心に発展した2010年代のアイドルカルチャーの総括にはなったかな

--中森さんにとって、アイドルは神聖な存在なんでしょうか?

中森:神聖であると同時に、野蛮な存在でもありますね。だいたいカリスマってのは神聖であり、かつ世界を滅ぼすような恐ろしい存在であったりもする。元々偶像っていうのは、神様が世俗化したものですよね。さらにその前、宗教や神様という概念というものが確立される前にも、人々は何かに対して祈ってたんだと思うんです。たぶん、雨ごいやお祭りの時に歌ったり踊ったりしていた。映画『天気の子』みたいな。それが最初のアイドルじゃないか? お神輿なんかもそうでしょう。「わっしょい、わっしょい」って、アイドルを応援する形にすごい近いと思うんですよね。そういうアイドルの起源から未来までを描こうと思いました。でも、そうは言いつつも、小難しくならず、とにかくエンターテイメントとして楽しめるようなものにしようと。アイドルのことが分からなくても面白く読める内容になっていると思います。

--最後に、今後のアイドルシーンについて、思うことをお聞かせ下さい。

中森:作品としては、コロナ前の握手会などの“接触”を中心に発展した2010年代のアイドルカルチャーの、ある種の総括にはなったかなと思うんですよね。もちろん僕としては、早くコロナが終息して、新しい形でアイドルに復活して欲しいと思ってます。アイドルっていうのはもの凄く数が多くて、ジャンルも広いし、なかなか全てを網羅することはできない。その中で物語という形を借りて、もしかしたらアイドルに興味のない人達にも興味を持って貰えるものが書けたんじゃないか? それからもし、「アイドル小説」っていうジャンルがあるとしたら、そこでは確実に残る作品にはなったかなって自負はあります。何よりアイドルというものを真正面から捉えて書くこと、その目標から目をそらさず完成できたことがうれしいですね。僕ももう61歳で、周りも亡くなっていく人が増えて行く年齢ですよ。でも今後も、できる限り仕事を続けて、何かを作っていきたい。この間、現在62歳の宮崎美子がビキニカレンダーを出して大反響でした。彼女より1歳下の自分としては、「俺も、まだやれる!」と思ったりしてね(笑)。

■書籍情報
『キャッシー』
中森明夫 著
定価:本体1,800円+税
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163913131

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