完璧な贋作に価値はあるか? SF大賞受賞作『歓喜の歌 博物館惑星III』が問う、芸術とテクノロジーの未来

SF大賞受賞作が問う芸術の価値と可能性

 1年間(2019年9月から2020年8月)に発表されたSF作品から、「これがなかった以前の世界が想像できないような作品」「SFの歴史にあらたな側面を付け加えた作品」を選ぶ第41回日本SF大賞が決定した。

 林譲治≪星系出雲の兵站≫シリーズ(ハヤカワ文庫JA)とともに大賞に選ばれた菅浩江『歓喜の歌 博物館惑星III』(早川書房)は、美術の価値とテクノロジーの未来を探るSFで、美術品の贋作や窃盗を繰り広げる組織との対決を描くミステリーでもある作品だ。

 「ポップカルチャーの感性を芸術論へのカウンターパンチとして持ってきた」「偽物や遺伝子改変、アートの基準を超えるものへの挑戦」。2月20日に行われた日本SF大賞の選考会で、『歓喜の歌 博物館惑星III』に対して選考委員から出た評価の言葉だ。昨年9月から日本SF作家クラブの会長を務める池澤春菜が、選考会後のネット会見で紹介した。

 日本SF大賞は、SF作家や翻訳家、評論家らが参加する日本SF作家クラブが主催して、1980年に創設した賞だが、小説作品に限っていないのが大きな特徴だ。第4回は大友克洋の漫画作品『AKIRA』が選ばれ、第17回は金子修介監督の映画『ガメラ2 レギオン襲来』、第18回は宮部みゆき『蒲生邸事件』とともに庵野秀明監督のTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』が受賞した。

 SF作家らが選考委員となって受賞作を選ぶ形式は変わっていないが、候補作選びの方式には変化がある。近年は、一般の人に候補作を自由に挙げてもらった中から、作家クラブの会員が5作品まで選んで投票し、票数が多かったものを最終候補にしている。立原透耶が「中華圏SFの紹介・解説・翻訳・編纂などに関する功績に対して」と、編者を務めた『時のきざはし 現代中華SF傑作選』の2つで最終候補となったのも、それぞれに投票が多く寄せられたからだ。

 選考の結果、立原の「中華圏SFの紹介・解説・翻訳・編纂などに関する功績に対して」に、特別賞が贈られることになった。2020年11月に死去した小林泰三には功績賞。大賞の菅、林を合わせた4人が、第41回日本SF大賞の受賞者ということになる。

 《星系出雲の兵站》シリーズについては、リアルサウンドブックで細谷正充氏が「なぜ日本でも“ミリタリーSF”は成立するようになった?」というテーマで取り上げているので、ここでは『歓喜の歌 博物館惑星III』について触れていく。『III』とあるようにこの作品は「博物館惑星」というシリーズの現時点での最新作だ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「小説」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる