毒祖母に育てられ、少女は多重人格に……! 40年前の少女漫画に描かれた、教育の闇とは

40年前の少女漫画が問いかける人権意識

 令和になった今、こんなふうに貞操観念にうるさい保護者がどれだけいるのかはわかりません。でも昭和の時代には女の処女性を押しつける少女マンガがいくつかありました。ばあさんも孫に男と触れ合って欲しくないなら共学じゃなくて女子校に通わせればよかったのに。

 ばあさんの形相が恐ろしいから言うわけじゃないですけど、私はばあさんのやることなすことすべてが嫌いです。まず子どもには人権があります。やりたいこと、やりたくないこと、自分の人生をどうするかは子どもが自分の意志で決める権利がある。教育とは情報を与えることであって、子どもの尊厳を侵害することではないんです。

 異性交遊に関しても、経験薄くていいことひとつもありません。出会った男がいい人かどうかなんて、経験がなければ見分けられないでしょう。いろんな人と出会って付き合って、自分に合うのはどんな人かを経験を持って学んでいけばいいんです。そのために性教育をちゃんとする。子どもをしめつけてコントロールしてやりたいのは単なる支配欲を満たすことだけですよ。

 この作品が発表されたのは1981年。日本はまだまだ子どもの人権意識が薄いですが、こんな昔にそれにどんな害があるかを、すごくキャッチーに訴えているんです。そして当時はまだまだ多重人格も周知されていませんでしたが、いち早く取り入れているところもすごい。

 『ヤヌスの鏡』には続編があって、物語の後日談や、ばあさんの若かりし頃が語られています。あの厳格なばあさんにどんな過去があってああなってしまったんだろうと思って読んでみたんですが、ぜんぜん同情の余地のないところが興味深かったです。

■和久井香菜子(わくい・かなこ)
少女マンガ解説、ライター、編集。大学卒論で「少女漫画の女性像」を執筆し、マンガ研究のおもしろさを知る。東京マンガレビュアーズレビュアー。視覚障害者による文字起こしサービスや監修を行う合同会社ブラインドライターズ(http://blindwriters.co.jp/)代表。

(メイン画像=Unsplashより)

■書籍情報
『ヤヌスの鏡』
著者:宮脇明子
出版社:集英社

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