林遣都が魅せるソリッドな素顔 光の反射と空気感に満ちた作品集『THREE TALES』

林遣都が作品集で魅せるソリッドな素顔

 激動の2020年を連続ドラマ『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・CX系)の情感豊かな芝居で締めくくった林遣都。彼の演じる真人は暴行の罪で刑務所に入っていたという過去を持ち、ホームセンターでの同僚・桃子(有村架純)に告白されるものの、彼女の気持ちを受け入れられない。桃子はそんな彼を観覧車に誘い、事情を話してくれと懇願。真人は元恋人を守るために罪を被ったといういきさつとその辛さを涙ながらに語った。林遣都の黒目がちな瞳からは大量の涙がぽろぽろ。ドラマを見ているこちらもつられて泣きそうになってしまった。

 今年の出演作としては、ヒロインの“残念ハンサム”な幼なじみをコミカルに演じた朝ドラ『スカーレット』(NHK)も忘れがたい。また、単発ドラマ『世界は3で出来ている』(フジテレビ系)ではひとり3役を演じ、コミカルにもシリアスにも振れる演技のバリエーションを見せてくれた。

 そんな林遣都が30歳の誕生日を迎えた12月6日に『林遣都 作品集 THREE TALES』というフォトブックをリリースした。“写真集”ではなく“作品集”と銘打たれたこの本では、星野源や米津玄師のMVを手掛ける映像監督・林響太朗と組み、ドラマとはまた違った表情を見せている。

 ふたりはMr.Children『Your Song』のMVでキャストとディレクターという立場で出会い、林響太朗であれば林遣都の新たなストーリーの始まりを表現してもらえるのではというたっての希望でオファーしたそうだ。『THREE TALES』(3つのお話)というタイトルどおり三部構成で、章ごとにショートストーリーを展開するが、読者は話の筋を読み取ろうと躍起にならなくてもいい。林響太朗ワールドとでも言うべき光の反射と空気感に満ちた写真を味わえば、それで充分に楽しめる。その世界の中にいる林遣都は物語の主人公を演じていると見るべきだろうが、そこにはパブリックイメージよりソリッド(硬質)な彼の素顔も写し出されている。

 第一章では久しぶりの「予定のない週末」、街に出かける彼の姿が映し出される。アラスカなど極北の地まで出かけていた動物写真家の本を読んでどこかに行きたくなった彼は、街角のサイクルショップで自転車を新調し、目的地を決めずに漕ぎ出す。詳細は語られないが、そんなストーリーだろうか。しかし、おそらくは都心を自転車でぐるぐる回っただけでその週末は終わったようだ。テレビドラマとは違って喜怒哀楽のはっきりしないニュートラルな表情が、かえって30歳前の男性としての色気を放ち、ドキッとさせられる。

 第二章はモノクロームの世界。ここでも「遠くに行きたい」と思った彼が、今度は車を走らせ東京を出てどこかの海へ。曇り空の海岸でひとり、空と海に向かい合う彼の姿が映し出される。日が落ち、グラデーションの明度が低くなって白い空が黒に、グレーの海が闇にと変わっていく。黒一色の世界で彼のところにだけ光が差した瞬間の見開きショットが美しい。表現されているのは孤独の悲しみではなく、孤独になる自由であると感じた。

 そして、第三章。季節は真夏の八月。暑すぎて「眠れない」と言う彼は街に充満する熱気を、気だるそうにしのいでいる。青と赤と黄の原色が彩る、ウォン・カーウァイの映画『欲望の翼』のような世界。気温の上がった東京の夏は、もはや亜熱帯の香港と変わらないのかもしれない。彼の湿気をはらんだ髪と汗ばんだ肌。今は冬だからすっかり忘れているが、ここ数年の「八月」に感じる、こんなに暑い日が続くのでは普通に生活していけないというやりきれなさが彼の表情から伝わってくる。さらに言えば、気候がおかしくなってしまったように、いろんなことが狂いつつある今の社会で真っ当に生きていくしんどさみたいなものまで写し込まれている気がした。

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