『ハコヅメ』衰えない人気の理由は“パワーワード”にあり? 作者・泰三子ワールドの魅力
「箱詰め」とは、密閉された狭所空間に詰め込まれ身動きが取れなくなった状態を指す。加えて「箱」とは、交番(巡査派出所)の隠語である。
『ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜』 は、女性警察官のブラックな勤務様態を「交番に勤務する(監禁されている)」というタイトルに引っ掛け、皮肉たっぷりに伝えた作品だ。「労働基準法は警察官に一部適用外」を売り文句に、コアな人気を獲得した。元婦人警官という異色の経歴を持つ作者・泰三子(やす みこ)ワールドの魅力をお届けする。
連載3周年、人気の秘訣は「パワーワード」
『ハコヅメ』は、モーニング2020年52号で3周年を迎えた。
同誌の婦人警官バディもので長期連載となったのは『逮捕しちゃうぞ』以来だろうか。その人気の秘訣は、3周年記念の作者インタビューで編集部からも紹介された、矢継ぎ早に繰り出される「パワーワード」である。
『ハコヅメ』の連載開始とほぼ同時期に、『ちさと巡査、現場に急行せよ!!』や『警察官をクビになった話』など、警察の内情を暴露する作品がにわかに注目を集めたが、『ちさと巡査』は主人公が作者の代弁者となってブラックぶりを説明しているのに対し、『ハコヅメ』は登場人物が自分の言葉として不平不満をぶちまけており、その端々まで真に迫っているのが特徴的だ。
新米警官の川合と先輩指導員の藤ペア長の会話を見てみると、
川合:こんなブラック役所と知ってれば…。
藤:間違いなく収入は安定してるじゃん。
川合:いや安定してるの収入だけじゃないっすか、体調も精神も不安定になる一方なんですけど。
藤:大丈夫大丈夫、そのための福利衛生だから。
川合:そのための福利衛生なんですか。
藤:何かあっても遺族は大切にしてもらえるよ。
川合:生きてる職員は大切にしてもらえないんでしょうか?
(『ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜』1巻 36頁より)
このように、キャラクター達が自由に掛け合う中から、「生きてる職員は大切にしてもらえないんでしょうか」の強烈な一言が飛び出しているのである。
極めつけは、捜査一課の班長とヒラの刑事との会話だ。
班長:24時間体制で安田に対する尾行・張り込みをします。
刑事:捜査員の睡眠時間が計画に入ってません。
班長:入れてません。
刑事:倒れます。
班長:その時は他のコマと差しかえます。
刑事:ヒラの刑事は使い捨てのコマってことですか。
班長:いえ、体調回復次第リサイクルします。
(『ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜』3巻 79~80頁より)
これぞ泰三子ワールド、ブラックすぎる発言がぽんぽん飛び出してくる。
ちなみに3周年記念インタビューによると、まるで警察コントのような面白台詞の数々は、絵で見せる漫画家ではないため、とにかく文字で原稿を埋めて作画のスペースを小さくしたいという思いから来ているのだそうだ。
『銀魂』の空知英秋と双璧をなすパワーワードの使い手が、まさかこのような大人の事情から生み落とされていようとは……。