『鋼の錬金術師』ロイ・マスタングの本心とは? クールな表情の下に隠された、未来への希望
2001年から約10年にわたって「月刊少年ガンガン」で連載された荒川弘『鋼の錬金術師』。アニメ化だけではなく、実写映画、ゲーム、ドラマCDとさまざまなメディアミックスもなされ、多くのファンを魅了した。
亡くなった母親を錬成しようとしたものの失敗し、エドワード・エルリックは右腕と左足を、弟のアルフォンス・エルリックは肉体そのものを失ってしまった。
ふたりが心身共に大きな傷を負っているときに現れたのが、ロイ・マスタングだ。
エドの国家錬金術師の推挙はwin-winなのか
エドたちによる人体錬成直後に訪れたロイ・マスタングは、錬成陣と大量の血痕、そして散らばった薬品を見てすぐにエドたちが何を行ったのか察し、その胸ぐらをつかみ「何を作った!!」と怒鳴った。エドは黙って涙ぐみ、アルは「ごめんなさい」と謝り続けるのみだった。それからマスタングは淡々とエドに国家錬金術師への道を勧める。
「ただ私は可能性を提示する」
「このまま鎧の弟と絶望と共に一生を終えるか! 元に戻る可能性を求めて軍に頭を垂れるか!」
その言葉がエドの心に火をつけることになる。
マスタングは「(エドは)人体錬成を行った過去を隠し、国家錬金術師としての資格を手に入れることができ、自分は有能な錬金術師を推挙したことで株が上がる」と言い、今回の件が互いにとって利益あるものだとする。しかし、本当に「利益」だけだったのか。
軽薄な振る舞いに秘めた正義の炎
軍に入隊し士官学校を卒業後、国家錬金術師の資格を得たマスタング。イシュヴァールの内乱では戦果を挙げ、「イシュヴァールの英雄」の異名を得る。その異名が名誉と思う者もいるだろうし、不名誉だと思う者もいるだろう。多くの味方を守ったが、多くの敵――人間を殺したことも同義なのだ。
かつてはマスタングも淡い夢を抱いていた。
「この国の礎となって皆をこの手で守ることができれば幸せだと思っているよ」
それがイシュヴァールの内乱後は、「若い理想は打ち砕かれた」と腹立たしげに呟く。戦いで思い知ったのは「自分はゴミみたいな人間」だということだった。悲しいことに、あまりにもあっけなく命は奪われてしまう。
ただ、マスタングは理想が打ち砕かれたからと言って絶望はしなかった。出した答えは「わずかでいいから大切な者だけを守る」。一見、自分勝手に聞こえるが、「下の者が更に下の者を守る。小さな人間なりにそれくらいはできるはずだ」と続ける。自分に守れる人数はたかが知れている、それでもできるだけ多くの人を守りたい。打ち砕かれた理想も、根っこの部分は変わっていなかったのだ。
できるだけ多くの人を守るためにはどうすればいいのか。マスタングが導き出した答えはとても簡単だった。国のトップに立つこと。トップに立つためには、できるだけ自分が使える駒は多いほうがいい。エルリック兄弟に対してもそのつもりだったかもしれない。
ただ、彼は冷酷になりきれない、情に厚い男でもあるのだ。