『ドカベン』水島新司が野球界に与えた影響とは? パ・リーグ人気を高めた功績
キャッチャーにスポットライトを当てる
『ドカベン』の主人公は、キャッチャーの山田太郎。連載当時の野球界は投手や長嶋茂雄氏が守った花形のサードが人気で、キャッチャーは地味なイメージがあった。
水島氏はそんな状況で敢えて主人公をキャッチャーに据え、配球という描写を加える。『ドカベン』の作中では、キャッチャーの山田が打者の態度や性格を読み、投手の里中に敢えてど真ん中に投げ込む、スローボールを投げるなどのサインを送り、その通りに投げて打ち取るシーンがたびたび登場する。これは、それまでの野球漫画では見られないことだった。
主人公山田の打者の癖や性格を見抜いて投手をリードする様子に影響を受けた野球選手は、プロアマ問わずかなり多いと聞く。漫画でキャッチャーの頭脳が試合に大きな影響を与えることを描くことによって、その重要性をアピールしたのだ。
現代の日本野球では「良いキャッチャーがいるチームは強い」と認識されているが、この要因の1つにドカベンの存在があるともいわれている。
野球の細かいルールを周知させる
『ドカベン』内では、野球のルールブックに記載されているが、現実には出にくいプレーも登場する。
特に語り草になっているのが、「ルールブックの盲点」と言われたプレー。山田太郎2年の夏、山田太郎2年時の明訓高校対白新高校戦、10回表1アウト満塁で、明訓の微笑三太郎がスクイズ。これが投手不知火へのフライとなり、キャッチすると一塁へ送球。ダブルプレーでチェンジとなり、得点は入らないものと思われた。
ところが一塁がアウトになる前に三塁ランナーの岩鬼正美がホームベースを踏んでおり、アウトを3塁走者で成立するようアピールしなかったため、得点が認められた。
このプレーは後に高校野球の甲子園大会で出現し、選手が「ドカベンで知っていた」とコメントしている。水島氏が、細かいルールを全国の野球選手に認知させたのだ。
水島氏の作品は派手な魔球などがなく、ルールに沿った形で進められる。そのため、『ドカベン』や『あぶさん』などを通して野球の細かいルールや試合に臨む心構えを学んだ選手は多い。
水島氏の功績に感謝の声が続々
水島氏の引退が報じられると、王貞治福岡ソフトバンクホークス会長や清原和博氏、元読売ジャイアンツの江川卓氏、元横浜ベイスターズ監督牛島和彦氏など、多くの野球界OBが功績に労いの声を送っている。その事実を見ても、水島氏が野球界に大きな功績を与えたことは明らかと言えるだろう。