『鋼の錬金術師』アルフォンスが旅の終わりに手に入れたものとは? エドとの関係から読み解く
自分を取り戻す旅、兄を心から信頼する旅
人の死と向き合い戦いをかさねるにつれて、誰かを守るために戦うことへと気持ちが向いていく。エドも早く大人にならなければならなかったが、それはアルも同じだ。そして戦いの中で、「兄が自らを犠牲にしてでも自分を助けようとした」ことの重大さに向き合えるようになっていく。それまでだって、もちろん頭ではわかっていたのだ。ただ、心が追い付くまでには時間がかかる。
「最後の戦い」。戦闘の中でエドは左腕を怪我し、身動きが取れなくなってしまう。絶体絶命の中で、アルが決断したのは錬金術で自分の魂と等価交換でエドの右腕を取り戻すことだった。エドがそばにいたなら、絶対に許さなかった決断。だが、アルは信じていた。エドなら自分を必ず迎えに来てくれると。あまりにも大きすぎる賭けだった。
でも、その賭けができたのは長い旅路の中で人の生と死に触れたこと、そしてエドがギリギリの中で自分の魂だけでも取り戻そうとしたその気持ちを知ることができたからではないだろうか。そしてその“信頼”こそが旅の中で手に入れた何よりも大きいものではないだろうか。
兄弟だからといって信じあえるとは限らない。愛情があるとも限らない。アルが手に入れたのは、血の繋がりを越えた魂の絆だったのかもしれない。
(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))
■書籍情報
『鋼の錬金術師』(ガンガンコミックス)27巻完結
著者:荒川弘
出版社:スクウェア・エニックス
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