ホラー漫画家・伊藤潤二の「猫日記」が斬新すぎる! 不気味なタッチで描かれる愛猫家の日常
中でも、面白かったのが仕事でひとり、豪華なホテルに泊まった時の話。Jは婚約者にホテルを自慢し、いい気分になっていたが、返信メールでむーが真っ暗な部屋の中で自分の脱いだ洋服に寄り添っていることを知り、何とも言えない気持ちに。ホテルの一室で、「自分だけ贅沢してごめん」と叫んでしまう。家に残してきた愛猫の心境を想像し、深い後悔を抱いてしまうJ。彼は、もはや立派な猫好きだ。
Jの猫愛は、日常生活からもうかがい知れる。例えば、脱走を試みるよんのため、家中の網戸にカギを取り付けるなど、猫のことを考え、自発的に行動するように。仕事中には、キャスターがついた椅子の下で眠る猫たちを踏んでしまわないよう、ガムテープを車輪にはめ込み、「猫踏まずあめんぼう」を完成させた。こんな風に、回を増すごとにどんどん猫の魅力にハマっていくJの姿に読者は、つい自分を重ね合わせてもしまう。
人間の心をがっちり掴んで、二度と離さない。そんな力を持つ、猫という動物はもしかしたら、幽霊やお化けよりも恐ろしい存在なのかもしれない。ホラーと笑いが入り混じる本作は、猫の魔力を改めて痛感させられる一冊でもある。
■古川諭香
1990年生まれ。岐阜県出身。主にwebメディアで活動するフリーライター。「ダ・ヴィンチニュース」で書評を執筆。猫に関する記事を多く執筆しており、『バズにゃん』(KADOKAWA)を共著。
■書籍情報
『伊藤潤二の猫日記 よん&むー』
著者:伊藤潤二
出版社:講談社
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