『Dr.STONE』は“科学VS科学”の頭脳戦へ 千空たちは“科学の師匠”に勝つことができるか?

『Dr.STONE』“科学VS科学”の頭脳戦へ

 今回の戦いが面白いのは、千空とゼノの思考が、天才科学者ゆえに、とてもよく似ていることだ。しかし、千空が「拘束」を目指すのに対し、「暗殺」を目指すゼノの方が千空の何倍も冷徹で容赦がない。ゼノは、ルーナという少女をペルセウス号にスパイとして送り込む。ゼノの元から逃げ出したと嘘をついてペルセウス号に救助を求めるルーナを、千空は保護し、船の中に招き入れる。もちろん千空はルーナがスパイであることに気づいており、彼女からゼノの情報を引き出そうと考えている。

 「科学バトル最大の武器は情報だ!!」という千空。すでにゼノの側には、メンタリストのゲンが科学帝国側のスパイとして(裏切ったフリをして)潜入しており、ゲンの漏らした嘘の証言で、千空ではなく大樹を科学王国のリーダーだと思い込んでいた。

 大樹を船の甲板に誘い出し、スナイパーに狙撃させるのがルーナの目的だったが、千空にアイスクリームを渡され、情にほだされる。そしてゼノが元NASAの科学者だと知った千空は、ゼノがかつてロケット作りの質問メールに答えてくれた“科学の師匠”だと気付く。千空たちに情が映ったルーナは、大樹を殺せなくなり、せめて味方に情報を送ろうと、千空の名前を口パクで伝える。

 千空のことを思い出したゼノは、大樹は影武者で本当のリーダーは千空だと気づく。そして、ターゲットを千空に変更。ゼノは録音した声から千空の身長を計算で割り出し、スナイパーに狙撃させる。しかし(自分が狙われていると察した)千空はアイスクリームを作った際に用いた片栗粉の入った袋に水を混ぜて、ダイラタンシー流体(ふだんは液体だが、急激な力が加わると突如、個体となるという現象)を起こし、片栗粉の入った袋を防弾チョッキに流用。銃弾で身体を撃ち抜かれるものの、なんとか一命を取り留める。

 小さな情報からお互いの正体を探り当てていく千空とゼノの情報戦は、読み応え抜群である。論理的かつ繊細に話を積み上げていく稲垣理一郎ならではの作劇手法と、大ゴマをうまく使ったBoichiのハッタリの効いた絵の相乗効果によって一気に引き込まれる。2人の作家の資質がうまく活かされた、鬼気迫る攻防だ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『Dr.STONE』既刊18巻(ジャンプコミックス) 原作:稲垣理一郎
作画:Boichi
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/drstone.html

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