催眠術師・漆原正貴が語る”催眠の正体” 「肝心なのは“掛かる側”に集中力や想像力があること」
催眠と脳の関係とは
――催眠が起きているときは、脳にも変化がみられるのでしょうか。
漆原:催眠術は何をもって実在すると言えるのか、傍から見ているとわかりにくいんです。“あなたは立てなくなります”と暗示をかけたとき、本当に立てなくなっているのか、それとも立てないふりをしているだけなのか、外見から見る限り判断がつきません。そこで催眠が実在することを立証するには、催眠に掛かっているときにだけ見られる特徴的な脳活動が起きているかどうかが一つの指標になります。2000年代に入ってから、催眠に掛かっている脳の神経基盤を発見するため、催眠を神経科学や認知科学の分野で研究することが増えてきました。
――催眠と認知心理学、神経科学などの位置づけや関連について教えてください。
神経科学は、文字通り「脳や神経」を研究対象としています。神経伝達物質や脳の電位変化を調べることで、人間の脳神経の仕組みを生物学的に解き明かそうとします。
一方認知心理学は、心理学的な知見から神経科学的な知見まで総動員して心の仕組みに迫る学問領域です。認知心理学と神経科学は別に相反しているものではないんですね。
催眠について知ろうとしたときには、神経科学や認知心理学など、さまざまなアプローチがありえます。たとえば催眠を心理学のアプローチで研究するとしたら、催眠に掛かりやすい人は他にどんな心理的な特徴を持っているかを調べたりする。「催眠に掛かりやすい人は外交的なタイプなのか?」「催眠に掛かりにくい人はどんな特徴があるのか?」ということが知りたければ、心理学的なアプローチが向いているでしょう。
神経科学では、催眠を掛けたときに脳のどの部位がどのように反応するか、脳波計やMRIを使用して研究します。「催眠に関係している脳の部位はどこか?」が知りたければ、神経科学的なアプローチが有用かもしれない。どちらがより優れた研究かというわけではなく、知りたいことによって研究のアプローチは変わるのです。催眠のどの側面を見るかによって、適切なツールが変わってきます。