催眠術師・漆原正貴が語る”催眠の正体” 「肝心なのは“掛かる側”に集中力や想像力があること」

催眠術師・漆原正貴が語る”催眠の正体”

編集部が「催眠術」を実際に体験

 ここまで話を伺い、半信半疑で話を聞いていたリアルサウンドブック編集部の小林が催眠を体験してみることに。最初の催眠は、「指と手のひらが離れなくなる」催眠。(小林潤)

漆原氏(左)リアルサウンドブック編集部小林(右)

漆原:手を握って、好きな爪を一つ見てください。好きな爪を決めたらその爪をジーと見つめながら、指と手のひらが完全にくっつくところを想像します。隙間が完全に接着剤でくっついて動けなくなってしまって、指を開くのがすごく難しくなる。ぐっと力を込めていただいていいですか? 爪を見つめながらグッと力を入れる。

巧みな話術で被験者の集中力を高めていく

漆原:こうしてると指先の感覚がちょっと変わってくるのが分かりますか? ぽかぽかするとか、痺れてきたりとか、疲れてきたなとか。何かちょっと違う感覚があると思います。ずっと指を握りしめてると指が疲れてきましたね。そしたらほんの少しだけ力を抜いていただいて構いません。ちょっと力を抜くと小林さんの手はどんどん、どんどん固くなっていきます。もう開こうとしても開けない。どんどん固まってきて、なんでか分からないけど全く動かない......。いったん手を開こうとしてみてください。

小林:「うーん無理ですね(笑)。離そうとするんですけど固まってしまったような感じです」

思った以上に手のひらが固まってしまい笑みがこぼれる

漆原:「パン!」(強く手を叩く)人差し指をピンと伸ばしてください。ピンと伸ばすともうすごい曲げにくいのが分かります? 一回指を鳴らすとさらに固くなります。「パチ!」さっきより固くなりましたね。そのまま腕をスッと伸ばしてください。指先から肩の付け根まで一本の棒が通ります。一つ二つ三つ、固まりました! もう曲がりません。……一回手を叩くと全部解けます。「パン!」どんな感じでした?

被験者の集中度に応じて段階的に催眠をかけていく

小林:手汗すごいです。一言一言がピシッとはまる感覚ありました。

ペットボトルが好きになる?

 次の催眠は、「何の変哲もないペットボトルの水が好きになってしまう」催眠。果たして、そんなことはあり得るのだろうか。

漆原:「ペットボトルを持っていただいてよろしいですか? これ普通のペットボトルより手に収まりがいいのって分かります? 自分の手で持った時にピタッとしているというか、自分の手に合っている、片手で持った時にピタッと収まるようなサイズ感。

流れるように催眠を行う漆原氏
ペットボトルをコロコロしてみたり、強く握ってみたりして、ペットボトルへの集中力を高めていく

漆原:この部屋が少し暖かくなってきたので、冷たいものを持っているとちょっと嬉しいです。少し涼しげで、透明感があって綺麗だなと思う。そうやって触っているとどんどん自分にフィットして好きな感じがしてきます。他の人には取られたくないあなただけのペットボトル。他に人に取られたくない、離したくない。絶対に離したくない。

漆原氏がペットボトルを取り上げようとしても離さない

漆原:松田さん(リアルサウンドブック編集部)、小林さんのペットボトルを両手で引っ張ってください。小林さん、そのペットボトルがもっと大切なものになってきます。取られそうになって、触られるのさえ嫌になります。今ちょっと自分の方に引いたの分かります?

小林:おっ(笑)。

先ほどよりも頑なにペットボトルを離そうとしない

漆原:どうしてだか分からないですよね。分からないけど、取られたくないですよね。

小林:絶対イヤなんですよね。松田さんやめてください(笑)。

松田:すごい力、本気で取ろうとしても取れない。

漆原:でも一回手を叩くと、どうでもよくなります「パン!」(強く手を叩く)。はい、もうどうでもよくなります。

漆原氏の合図でさっと力が弱まる

小林:あぁ、もうどうでもいいです。離せないというか、離したくなかったんです。何だろう、もう、自分がよくわかんないです(笑)。

漆原:見ているとわかっていただけると思うのですが、言葉で語りかけるだけで、私が何かすごいことをやっているわけではないんです。あくまでやっているのは本人ですから。1対1で催眠を行う良さは、催眠を掛けているときに相手が今どういう状態になってるか観察しやすいことです。さっきのペットボトルを好きになるのも、ペットボトルを取ろうとした瞬間、小林さんがちょっとだけ自分の方に引いたんですよ。その様子でもう好きになり始めているのが分かったので、安心してどんどん暗示を強めていけるんです。

 話すペース、声の大きさを調整し、巧みな話術で催眠をかける漆原氏。その様子は、まるで言葉一つで、相手の思考力を徐々に奪いながら脳の機能をハックするようだった。

 催眠は医学的にも研究が進んでおり、今後は医学の分野をはじめ幅広い活用が期待されるそうだ。

 漆原氏の本を読むと催眠に対する誤解、思い込みが薄れつつ、人は揺るぎやすいものだと理解できるかもしれない。また、自己催眠は緊張の緩和と共に必ず解けるとのこと。

 初心者には、掛かっても問題がない催眠からはじめてみることもおすすめのようだ。自己催眠を取得して、セルフコントロールにうまく活用しみては。

■書籍情報
『はじめての催眠術』
著者:漆原正貴
出版社:講談社
発売日:2020年09月16日
定価:本体860円(税別)

漆原正貴プロフィール

1990年神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業。東京大学大学院総合文化研究科修了。関一夫研究室に所属し、手品や催眠の認知科学を研究する。学生時代より、デモンストレーションとしての催眠を実践。大学院在学中にスマートニュース株式会社に入社し、メディア事業開発に従事。現在は出版社に勤務しながら催眠術師としても活動している。

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