有終の美を飾った『ハイキュー!!』 読者に示し続けた“挑戦する姿勢”の美しさ

『ハイキュー!!』読者に示し続けたものとは

歴史が詰まった最終巻(※以下、ネタバレあり)

「あと1セットか2セットか」
「祭りが もうすぐ終わる」

 この楽しかった時間がもうすぐ終わってしまう。終わらせたくなくて、思わずページをめくる手が止まる。「どっちが点獲ってもアガる試合観てるウチら 無敵じゃん…?」という田中の姉・冴子のセリフに大きく頷く。リアルタイムでこの物語の結末に立ち会えるのはなんという幸運なんだろう。

 影山擁するアドラーズと、日向が所属するブラックジャッカルの試合、第3セット終盤から描く最終巻。プレーひとつひとつにはこれまでの歴史が凝縮されている。

 日向はある日突然レシーブがうまくなった訳ではないし、急に宮侑に代わってトスを挙げられるようにはならないし、いきなりジャンプサーブを打てるようにもならない。そこには才能に見あうだけの努力があった。

 牛若と日向の因縁や、それぞれの選手の成長の過程が、回想と印象的なセリフと共に回顧されているが、特に印象的なのが横断幕の演出だ。第399話から第400話にかけて、選手たちとそれぞれの母校の横断幕が一緒に描かれている。星海なら『習慣は第二の天性』、木兎なら『一球入魂』、牛若なら『強者であれ』。日向がスパイクモーションで、影山にブロックで飛んでいる駒には『飛べ』。そして、最終話ではアルゼンチン代表としてコートに立つ及川が『コートを制す』の言葉を背負って登場する。

 これまでもそれぞれの横断幕の言葉はそのチームの象徴として取り上げられてきていたが、この言葉と選手を見た瞬間に、読者の脳裏には歴史が一気に蘇る。あのときの試合、あのプレーが今のこの瞬間に繋がっているのだと瞬時にさまざまなシーンが押し寄せてくる。

 単行本収録に際して、最終話にかなりの加筆がなされている。プラスされたコマとページによって臨場感が格段に増しているのがわかる。(特に及川のラスボス感!)

 試合を見守る仲間たちの表情もより生き生きと見えてくる。「世界のブロッカーが最も嫌うスパイカー」と複雑なホメ方をされた日向を見守り、笑顔を見せる月島たち。「おにぎり宮」に集う稲荷崎高校の面々。ページが増したことで北の「どや 俺の仲間皆すごいやろ」のセリフと嬉しそうな笑顔もじっくり堪能できる。

 宮城の高校で出会った影山と日向がオリンピックの舞台で跳躍し、ノールックでグータッチをするーー。そんな見開きのページにこみ上げるものがある。

 奥付のあとにも、続きが用意されていた。バレーボール男子世界クラブ選手権大会決勝の舞台。再び相対する日向と影山。まるで『ハイキュー!!』の世界は終わらないのだといいたげな演出は、最終巻の最後の1ページだというのに読者の感情を最高潮にまで盛り上げたのではないだろうか。

 終わりは寂しい。それでも、この世界のどこかで日向も影山も、みんなプレーを……そして「努力」をし続けているだろう。昨日と同じ自分でいる人間はいない。調子に乗ればセンスは鈍るし、自分は凡人だからとあきらめてしまえば成長などあり得ない。考えてみれば『ハイキュー!!』は、ずっと読者にこう問いかけ続けていた。

ーー昨日の敗者たち 今日のお前は何者だ?

(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))

■書籍情報


『ハイキュー!!』(ジャンプ・コミックス)45巻完結
著者:古舘春一
出版社:株式会社 集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/haikyu.html

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