泥酔して暴走する彼女の姿は、自分の姿かもしれないーー『アル中ワンダーランド』が鳴らす警鐘
とはいえ、どうにか「酒」との付き合い方を考えたいもの。軽い体のケガ程度ならまだしも、ときに社会的な信用というものも失いかねない。そんな恐怖とスレスレの日常が本作にはユーモラスに描かれており、それを“他人事”だと捉えれば笑えるかもしれないが、“自分事”として受け止めたとき、笑ってしまう人は少ないだろう。飲酒する/してしまう理由は人それぞれだ。本作のカバーになっている一コマのように「私はお酒を飲まないと人と明るくしゃべれないの」という人もいるだろうし、「そこに酒があるから」という人もいる。いずれも“依存”していることに違いはない。
現在のコロナ禍において、精神のバランスを崩してしまう人も多い。本作では「酒=アルコール」を扱っているが、依存するものや、その度合いは人それぞれだ。アルコール中毒者ほど、「私はアル中じゃない」と言うらしい。自分では気がつきにくいのが“依存症”というものなのだ。この依存の対象を別のものに置き換えてみれば、誰もが他人事ではなくなるはずである。
帯に記されている、「お酒に逃げたらこうなった。」との言葉が印象深い。しかし、“逃げ道”が必要な人が数多くいるのが現状だ。本作の巻末には作者と小説家・吉本ばななの特別対談が収録されており、断酒している作者が「私は今、サウナと犬の散歩と整体気功がある」と、そこで述べている。逃げ道は多くあった方がいい。それが何かひとつのものに依存しないための術だとも思う。笑いや涙とともに、本作をアルコールにかぎらず、幅広い“依存”に対する「警鐘」として受け止めたいものである。
■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter
■書籍情報
『アル中ワンダーランド』
著者:まんきつ
出版社:扶桑社
定価:本体650円+税