半沢直樹とヨルシカ、それぞれの「盗作」と「模倣」 9月期月間ベストセラー
模倣の肯定から見えること
「盗作」を否定し、「模倣」を肯定する『アルルカン』を読んでいておそらく誰もが想起するのは、原作小説と映像との関係である。原作に触発されて作られるドラマや映画は「模倣」の産物である。それは時として原作以上の評価を得る。原作だけでは到達できなかったことをなし得る。そしてやはり時として原著者を喜ばせ、触発するものとなる。たとえば池井戸による『半沢』シリーズの前作『イカロスの翼』は前回のドラマを踏まえて役者を当て書きしたような内容だった。
『アルルカン』に大和田たちが出てこないのはドラマのファンにとっては残念ではあるが、こうして考えてみると、これはこれで、ドラマの力もあってお茶の間レベルにまで大きく知名度を上げた作家・池井戸潤からの応答とも取れる内容だ。
ヨルシカも示しているように、プリミティブに「こういうものをつくりたい」という衝動を喚起する作品・作家の力があってなされる「模倣」こそが、熱を帯びたまた別の何かを生み出す。誰の模倣もせずにクリエイターになる人間はいない。誰の模倣もせずに作品をつくれる人間もいない。少なくない傑作や傑物の背後に、渇望や感染に満ちた模倣がある。
とかくパクリにはうるさい世の中になったが、「模倣」の価値や意味に再考を促す作品が揃って現れたことは興味深い。
■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。