『BLEACH』市丸ギンは「愛に生きた男」だったーー乱菊への深い想いを考察

『BLEACH』市丸ギンは愛の男だった

 「週刊少年ジャンプ」にて約15年間連載を続け、人気を博した漫画『BLEACH』。アニメ化、映画化、舞台化、ゲーム化……とメディアミックス展開されたこの名作は、2021年8月に迎える20周年に向けて、『BLEACH 20th ANNIVERSARY』として再び動き出した。そして同作には主人公の黒崎一護をはじめ魅力的なキャラクターが数多く登場しており、人気投票ランキングが数多く行なわれている。その中でも毎回上位にランクインし、女性人気が高いキャラクターと言えば、市丸ギンではないだろうか。

『BLEACH(47)』

※以下、ネタバレあり

 市丸は尸魂界を守る護廷十三隊・三番隊隊長として登場した。その強さは隊長格の中でも相当なもので、斬魄刀を解放しなくとも相手によっては優位に戦うことができるほどだ。そして、とにかく不気味なキャラ。常に飄々としており、感情が見えることもほとんどない。しかも、相手を煽ることも多々あり、一護と初めて会った時から好戦的であった。さらに、はんなりとした京都弁を話すのだが、これも捉えどころのない市丸のキャラ作りに一役買っている。ちなみに、アニメの担当声優・遊佐浩二の声は、市丸にピッタリだった。放送当時、彼の色気ある京都弁に騒ぐファンの声を多々聞いたものである。「飄々とした態度で色気ある京都弁をしゃべる男が、めちゃくちゃに強い」。この設定で人気が出ない訳がないのである。

 そんな市丸は「尸魂界篇」の最後で死神たちを裏切り、藍染惣右介と共に虚圏に行ってしまう。どこからどう見ても悪役の一人だ。だが、その厚いベールを剥がしてみれば、誰よりも愛に生きた男であると言えよう。市丸の行動の全ては、幼少期一緒に暮らしていた松本乱菊が「泣かんでもすむようにしたい」という思いからなのである。

 思えば、片鱗はあったのだ。藍染、市丸、東仙要の裏切りが全て詳らかになった、原作単行本20巻。冒頭の詩はこうだ。

美しきを愛に譬ふのは

愛の姿を知らぬ者

醜きを愛に譬ふのは

愛を知ったと驕る者

 市丸が詠んだとされるこの詩には、乱菊への思いを決して口にするまいとする彼の思いが詰まっている(この詩になぞらえるならば、市丸を「愛に生きた男」とする筆者は愛を知らぬ者ということになるのだが……)。

 そして「尸魂界篇」の最後、虚圏に旅立つ前に乱菊に取り押さえられていたギンは、こうつぶやく。

もうちょっと捕まっとっても良かったのに…

さいなら、乱菊

ご免な

 そこで見せるギンの表情にはいつものニヤニヤした不気味さはなく、名残惜しそうな、困ったような表情であった。空座町を侵略しようとする市丸を追いかけた乱菊に、なぜここに来たかと問うた時の答え「…決まってんでしょ。あんたがいるからよ」と言われた時の表情も、そうであった。さらに、なぜ藍染に付いたのか乱菊に問い詰められると、「邪魔や」と斬魄刀を向けるも斬ることはせず、愛染へ「殺しました」と報告する。これも乱菊を巻き込まないためだったのだ。

 そして、かの有名な原作単行本47巻の冒頭の詩だ。

君が明日 蛇となり

人を喰らい 始めるとして

人を喰らった その口で

僕を愛すと 咆えたとして

僕は果して 今日と同じに

君を愛すと 言えるだろうか

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