『魔王学院の不適合者』が描くのは、実は身近な問題? 転生した魔王は“間違った歴史”とどう向き合うか

『魔王学院の不適合者』が描くのは、実は身近な問題? 転生した魔王は“間違った歴史”とどう向き合うか

わりと身近な話/逆側から読むと

 アノスが遭遇することは、現実世界でも見られる話だ。

 為政者なりの手によって歴史・起源が捏造される、といったことは、文書の改ざんや破棄がニュースで報道される国では身近な問題だし、意図をもって特定の権力者をくそみそに記述することは過去の歴史書でも行われてきた。

 また、アノスはどう見ても実力があるのに、学院のしょうもない試験をクリアしたり、なんやかやのルールや手続きを踏まえないと認めてもらえず、なにかと難癖を付けられたり、不正をされたりする。これもよくある光景だ(アノス側もバレないような魔法を用いてズルをする)。

 だからこそアノスに共感し、憤りを覚えながら読むこともできるのだが、逆側のことを考えて読んでもおもしろい。

 読者はアノスが本物の魔王だと知っているが、転生後の世界の人間たちは知らない。2千年前の魔王が転生したのだと自称し、「常識」たる皇族とそれ以外の序列を無視するこいつはなんだ? となるのは当たり前だ。そんなやばくてやたら偉そうなやつを、どうやったら認めていけるのか? 歴史が書き換えられるなんてことは可能なのか? と。

 それぞれの人が「自分が正しい」と思っているなかで、組織や社会の変革はいかにして可能なのか、何がボトルネックになり、どうすれば変わってくれるのかを描いた作品としても読める。

 アノスを欺いた側にも深い事情があり、両者の対話が成立する、というのがフィクションの中にしかない現象なのが残念だが……。

 実力行使でバトルで大半を片付けるのではなく、転生後の世界の中で手続きを意外と重視して進めていくのが興味深い作品である。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

 

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