『鬼滅の刃』ノベライズはなぜ支持された? 新刊『風の道しるべ』から読み解く、スピンオフとの相性

『鬼滅の刃 風の道しるべ』レビュー

 『週刊少年ジャンプ』本誌で最終回を迎えてからも、『鬼滅の刃』の人気の勢いがとまらない。7月3日に発売された単行本21巻は、初版300万部の発行、さらに累計発行部数は2カ月弱で2000万部延ばし、8000万部を突破。そんななか、ノベライズの新作『鬼滅の刃 風の道しるべ』が同日発売された。本作は、風柱・不死川実弥と兄弟子・粂野匡近との交流を描いたスピンオフ的内容だ。

 これまでに、『鬼滅の刃』のノベライズでは、『鬼滅の刃 片羽の蝶』、『鬼滅の刃 しあわせの花』、『鬼滅の刃 ノベライズ~炭治郎と禰豆子、運命のはじまり編~』が刊行されている。集英社JUMP j BOOKS(以下、j BOOKS)より刊行された『片羽の蝶』『しあわせの花』の2冊は、累計売上にて100万部を超えている。ヒット漫画のノベライズでさえ1冊何十万部も売れるのは珍しいなか、100万部を超えるのは異例なのだ。

 本作もこれまでのj BOOKSと同じく短編集の構成で、表題作の他にも数エピソードが収録されている。本稿では、表題作「風の道しるべ」を中心に論じつつ、なぜノベライズがこれほど支持されたのかを考察したい。

※以下、ネタバレあり

 「風の道しるべ」は、実弥が“稀血”を武器に自己流で鬼を殺して血まみれだったところを、匡近に救われたシーンからはじまる。その後、匡近との交流が描かれ、鬼狩りの任務へと向かう。“稀血”とは、自身の血の匂いで鬼を酩酊させる能力だ。(参考:『鬼滅の刃』不死川実弥はなぜ炭治郎とぶつかっていたのか? 最後の共闘に至る道すじ

 匡近は風の呼吸の使い手。実弥に対して「傷をつくるな、そういう捨て身の戦いをするな、飯は食ったか、皆と仲良くやっているか、風呂はちゃんと入っているか、人を睨めつけるような顔をするんじゃない」などとたびたび注意をする。また、「俺もいつかは柱になりたいな。実弥もそうだろう?」「どっちが先に柱になれるか競争な」などとたきつける。実弥にとっては、お節介で心の底からうっとうしい存在だった。

 実弥はもともと匡近の前のめりな姿勢に乗り気ではなかった。匡近から「希望を捨てたり、自棄になっちゃダメだぞ?」「人生を楽しむのは、大事なことだぞ」と言われるも、ことごとく反発していた。それは、実弥の家族に起きた悲劇以来、人間らしい人生をあきらめていたから。彼を生きながらえさせていたのは、鬼へのうらみと弟の幸せを守ろうとする意思だ。

 しかし、『鬼滅の刃』本編第168話でも描かれているように、その後、匡近は鬼に殺される。匡近を失ったのち、鬼殺隊当主にわたされた遺書で、実弥は知らなかった友の姿に気づく。兄貴風を吹かせてきたのも、彼の死も、すべてはやさしさからだった。匡近がとても繊細で、他人を深く思いやれる性格だからこそ、実弥のことを案じてくれていたのだ。実弥は匡近の想いをくみ取れないどころか、己の弱ささえ受け入れられていなかったことに気づき、その心境は変化した。

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