『ONE PIECE』ウソップは“勇敢なる海の戦士”になれたのか? 圧倒的な成長の軌跡を振り返る
“海賊王”、“世界一の大剣豪”、“世界中の海図を描く”、“伝説の海を見つける”……そんな「ロマン」をそれぞれ胸に秘めているルフィ海賊団だが、ウソップも例に漏れず、かなりのロマンチストだ。彼の夢は、“勇敢なる海の戦士”になること……麦わらの一味のなかでは、いささか抽象的である。ところが、かねてより胸に抱いていたこの“ロマン=理想”に、いまやウソップは近づきつつあるだろう。
麦わらの一味におけるウソップのポジションは狙撃手だ。しかし、一味加入時の彼は、大した戦力とは言い難いものがあった。ウソップはゾロに次ぐ、ルフィ海賊団に正式加入した二人目の仲間だが(ナミの方が先にルフィらと行動をともにしているが、彼女の正式な加入は四人目で、サンジの次だ)、ルフィ、ゾロら尋常ならざる力を持つ者たちと比べれば、その力の差は誰の目にも明らかであった。そもそもウソップは、言うなれば“普通の人間”としてルフィ海賊団のクルーとなった存在なのだ。であれば、加入当初の彼が胸に抱いていたロマンが具体性を欠いていてもしょうがない。
ウソップは、かつては自身の率いていたウソップ海賊団の“元船長”でもある。勝手にルフィ海賊団の傘下に入り、“麦わら大船団”なるものを結成している者たちのなかには文字通りの“船長”がいるが、ルフィはこれを正式なクルーとして認めていない。とある海賊団の船長がルフィ海賊団の本当のクルーとなったのは、ウソップただ一人なのだ。とはいえウソップ海賊団とは、にんじん、ピーマン、たまねぎら悪ガキトリオを引き連れた、いわばお遊びに過ぎないもの。しかし彼は、ホンモノの海を、船出を、夢見ていた。赤髪海賊団の狙撃手・ヤソップという、“勇敢なる海の戦士”である父の存在を誇りに思っているからだ。つまり彼はルフィに負けず劣らず、「海賊」というものにかける想いが人一倍強い存在なのである。
一味加入当時のウソップのことを「普通の人間」と先に記したが、彼自身、これには自覚的であった。「アーロンパーク編」での対“チュウ戦”において彼は、「海賊ごっこは終わったんだ」という言葉を放っている。もちろんこの“海賊ごっこ”とは、ウソップ海賊団のことだ。あれがただの遊びと変わりないものだと、彼はよく分かっていたのである。その後「アラバスタ編」では、チョッパーとともにMr.4&ミス・メリークリスマスのコンビをかろうじて倒したものだが、敗北や敵前逃亡も多かった……。
そんな彼の“海賊ごっこ”が本当の意味で終わったのは、実際には「アーロンパーク編」でのことではなく、「ウォーターセブン編」そして「エニエス・ロビー編」でのことのように思う。造船業が盛んな「ウォーターセブン」において、修復不能となったゴーイングメリー号との別れを決心したルフィと対立し、決闘の末に一味と決裂。メリー号はルフィ海賊団にとって大切な“仲間”であったが、彼に対するウソップの想いは誰よりも強かった。船をめぐる“船長との対立”とは、彼がまぎれもなく海賊であることを意味しているだろう。その後「エニエス・ロビー」にて、素性を隠した姿(のつもり)で“狙撃の王様・そげキング”として登場したウソップは、ルフィ(船長)の命のもと、世界政府の旗を撃ち抜いている。世界政府にケンカを売ったのは、そして、戦いの狼煙を上げたのは、彼なのである。この一連のウソップの行動が、“海賊ごっこ”の終わりを告げているように思うのだ。