サンキュータツオ初の随筆集『これやこの』は人生の“救い”になり得る 「別れ」を綴る17篇を読んで

サンキュータツオ随筆集は“救い”になり得る

 本書には、ゴシップの愉しみというのもある(それはここ近年の亀和田武のエッセイにも通じる)。先の柳家喜多八と立川左談次といった芸で名を上げた人だけではなく、著者の肉親や学生時代の友人知人のちょっとしたエピソードが織り込まれ、その人を実際には知らない読者も思わずくすりと笑ってしまうのだ。

 だが読み進めるうちに、この人達はこの世にもういないという何とも言えない想いに襲われる。そして、“死”は自分の中にも存在しているということに改めて気付かされる。

 最後の章では、京都アニメーションの事件について綴られる。作品の大ファンだった著者は事件に深く傷つくが、ある出来事から、生と再び向き合うことができるようになる。それまでの一話一話を経て行き着いたこの章の重みと輝きは、著者の露わな感情と相まって素晴らしいの一言だ。

 読み終えて、死と巡り会うことが「できた」と、そう思えた。悲しみや苦しみ、覚悟というような言葉だけではない本書だからこそ、これからを生きていく上で救いのような存在になったと思う。重々しいレクイエムではなく、軽やかにそれぞれの“死”を振り返り、これからも著者は伝えていくのだろう。もうこの世にいない、その愛すべき人達のことを。

■山本亮
埼玉県出身。渋谷区大盛堂書店に勤務し、文芸書などを担当している。書店員歴は20年越え。1カ月に約20冊の書籍を読んでいる。マイブームは山田うどん、ぎょうざの満州の全メニュー制覇。

■書籍情報
『これやこの サンキュータツオ随筆集』
著者:サンキュータツオ
出版社:KADOKAWA
定価:本体1,400円+税
https://www.kadokawa.co.jp/product/321907000688/

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