くすぶる若者たちは何を思う? 松居大悟『またね家族』と葵遼太『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』

映像化必至?新人作家の小説2作紹介

 渋谷センター街の入り口にある大盛堂書店で書店員を務める山本亮が、今注目の新人作家の作品をおすすめする連載。第6回である今回は、松居大悟の『またね家族』と葵遼太の『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』を取り上げる。いずれもくすぶる若者たちの再起の物語だ。(編集部)

連載第1回:『熊本くんの本棚』『結婚の奴』
連載第2回:『犬のかたちをしているもの』『タイガー理髪店心中』『箱とキツネと、パイナップル』
連載第3回:『金木犀とメテオラ』
連載第4回:『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』
連載第5回:『クロス』『ただしくないひと、桜井さん』

 舞台、映画、テレビにおいて脚本・演出で活躍する松居大悟の初小説『またね家族』は、福岡で生まれ育ち、演劇を志して東京に出てきたタケシを中心に描かれる群像劇だ。

 自分への不甲斐なさと自惚れ、周囲への嫉妬や今にも崩れ落ちそうな信頼など、タケシを通じて人間のあらゆる側面が描かれ、諦めきれないのに前へ行きつ戻りつしてしまったり、心を決めたのに躓いてしまうような、タケシの行動も躍動的に描かれている。

 周りの演劇関係者や恋人、そして福岡にいる家族の描写もよかった。素直に相対することが出来ない人がいるからこそ、タケシの存在にふくらみが出ている。群像劇の面白さである。

 タケシが主催する劇団公演の打ち上げで、若い知人は次の言葉をタケシに投げつけている。

〈「優しい人たちに囲まれていいですねぇ」(中略)「都合がよすぎるし、自分の事しか考えていない。よくこんな作品を上演しようと思いましたね。」〉

 このセリフは端的に彼の性格や存在を捉えて読者に示される。このような、もがき、焦り、消え失せてしまいそうな希望の描写も、青春小説の醍醐味を味わせてくれる。

 また筆者には、会話の場面が対面ではなく、顔を合わせずに並んで喋っているように感じられたのが面白かった。互いの目と目を合わせて伝え合うようなキャッチボールのコミュニケーションではなく、言葉や心情を未来に向かって投げているように見えたのだ。

 群像劇で青春小説だが、本書はさらに家族小説でもある。奔放に生きてきたが癌を患って死期の近い父と、タケシにとってはコンプレックスとなっているいじめっこだった兄、まだ幼い異母弟、そしてしっかり者の実母(特に彼女とのフランクなやり取りは、この物語にとって重要なリズムを生み出している)と継母。

 ある出来事を通じ、タケシが家族と正面から向き合う姿も描かれていく。もしかすると、登場人物たちの動きによって、著者も思いもかけなかったような展開となっているのかもしれない。

 本書を読んでいる間、筆者には「愛情」というキーワードがまとわりついていた。リリー・フランキーが書いた『東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜』のような、ぐっとくる小説だった。

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