くすぶる若者たちは何を思う? 松居大悟『またね家族』と葵遼太『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』

映像化必至?新人作家の小説2作紹介

 漫画誌で構成や原案に携わり、ウェブ上で小説を発表している葵遼太のデビュー作『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』(この題名はロックバンドのニルヴァーナに所属し、若くして亡くなったカート・コバーンに由来する)は、高校3年生の時ある理由から留年した主人公・晃と1つ歳下の3人の同級生、そして晃の亡くなった恋人を巡る青春小説だ。

 事前にゲラを読んだ各地の書店員の高い評判を、刊行前からSNS上などで見聞きすることが多かった(興味のある方はTwitterで「#ままない」「#ままない症候群」で検索して欲しい)。多々ある感想の中でもおまめ氏のnoteに書かれた感想がとても印象的だった(https://note.com/0mqme_0109/n/n9c88c031b5a9)。

〈「ままない」を読んで晃たちの、クラスで浮いても気にせず真っすぐ前を見ている姿に後頭部をぶん殴られたような気分だった。
1人1人がすごく強くて私もこういたかった!て思いながら読んでいたはずなのに、読み終わった後に物語に対しての余韻を味わいながらあの暗黒の高校時代のことをふっと思い出した。
前は思い出したら最低な気分になっていたのに、あの頃の大嫌いだった自分を不思議と好きになっていたのだ。(中略)私のちっぽけな人生の中の消したかった数年を愛せるようにさせてくれた作品を少しでも手に取ってもらうきっかけを作れたらと思っています。〉

 筆者もこれを読んで、まさにと膝を打った。

 晃はもちろんだが、同級生である3人の男女も魅力的だ。活動的で人懐っこい者、オタク気質のある者、吃音に悩む純粋な心の持ち主。現状に満たされていないという屈託と若く熱い想いがまぶしい。彼らは晃のかつての同級生でありバンド仲間でもあった女性の力を借りてバンドを組み、学園祭でのライブに向けて団結していく。そこに晃の亡き恋人の影が見え隠れする。

 過去にこだわり続けているのに、正直な気持ちを押し殺し努めて冷静に見せる晃の痩せ我慢。自分がどんなに絶望していても、周囲や世界は勝手に光り輝いているという対比は、見事の一言に尽きる。無様でもいい、笑われてもいい、それでも信じる先へ向けて歩み続けていくことの大切さを教えてくれる物語だ。

 今回紹介した2冊をぜひ手に取って欲しい。これから読み終えた人達の感想を読めることが、楽しみでならない。

■山本亮
埼玉県出身。渋谷区大盛堂書店に勤務し、文芸書などを担当している。書店員歴は20年越え。1カ月に約20冊の書籍を読んでいる。マイブームは山田うどん、ぎょうざの満州の全メニュー制覇。

■書籍情報
『またね家族』
著者:松居大悟
出版社:講談社
定価 : 本体1,650円(税別)
http://kodansha-novels.jp/2005/matsuidaigo/

『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』(新潮文庫nex)
著者:葵遼太
出版社:新潮社
定価:693円(税込)
https://www.shinchosha.co.jp/book/180191/

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