炎上騒ぎになった『100日後に死ぬワニ』、漫画作品としての真価は? 単行本を再読して感じた作者の実力

『100日後に死ぬワニ』作品の真価

 きくちゆうきの『100日後に死ぬワニ』の単行本が4月8日に発売された。2019年12月12日から2020年3月20日にかけて、作者自身のTwitterアカウントで毎日連載(更新)された同作は、現代の日本を舞台にした「日常物」の4コマ漫画である。登場人物の多くは擬人化された動物たちで、主人公はアルバイト生活を送っているごく普通の青年のワニ。きくちはタイトル通り、このワニが死ぬまでの平凡な日常を、100日間にわたって、あたたかみのある独特なタッチで綴っていった。

作品に魅力があってこそのメディア展開

『100日後に死ぬワニ』帯つき表紙

 ちなみに、最後に死ぬといっても、本作は前述のように「日常物」の4コマ漫画なので、ワニに残された100日間(厳密には99日間か)は、彼にとってはいわば「なんでもない日々」である。だが、毎回、4コマ目の下に「死まであと○日」というカウントダウンが明記されることにより、読者はその「なんでもない日々」が、実は「かけがえのない日々」なのだということを意識しながら読むことになる。淡い恋心を抱いている「センパイ」の女性が見せてくれた優しい笑顔も、友人と一緒に食べたラーメンの味も、実家の両親が送ってくれたみかんの甘さも、ワニにとってはこれが「最後」になるかもしれないのだ。だが、彼はそのことを知らない。これまでにも、毎回カウントダウンが表示される連続物のドラマやアニメはあったが、本作のような切ない仕掛けとしてその効果を使った作品はなかったのではないだろうか。

 さて、そうした“見せ方”のうまさもあり、連載の終盤には社会現象的といってもいいくらいの話題を集めていた同作であるが、最終回を迎えた直後に、書籍化や映画化をはじめとした大がかりなメディアミックスのプロジェクトが告知され、一部のファンの反感を買った。要はあまりのスピード展開に、最初から仕込みがあったのではないかと疑われたわけだが(いま思えば、ひとまとめに告知するのではなく、書籍化なり映画化なりが決まった時点で、それぞれ個別に情報を解禁していけばよかったのかもしれない)、さらに、企画全体への大手広告代理店の関与も勘ぐられ、結果的に同作は漫画の評価とは別のところで“炎上”した。

 きくちはのちに広告代理店の関与を否定したが、真相は私のような第三者にはわからない。また話題作ゆえ、今後もさまざまな角度から、厳しい批判や指摘を受けることはあるかもしれない。しかし作品そのものに魅力がなければ、多くの人と金が動くメディアミックスの企画など実現するはずがないし、そもそも100日ものあいだ、数十万から数百万単位の人々の目を引きつけることはできなかっただろう。そう、今回あらためて本になった形で同作を読み返してみたのだが、正直にいって、命の大切さを描いたなかなかいい作品だと私は思った。また、前述のとおり、同作が話題を集めた理由のひとつとして、「カウントダウンとともに毎日更新していく」という“見せ方”(連載方式)のうまさがあったと思うのだが、今回、1冊の本として最初から最後まで一気に読んでみても、さほど物語やキャラクターに対する印象が変わることはなかった。むしろ、全編を通して再読することで、「センパイ」との恋の行方の上げ下げや、ヒヨコの救出ないし暴走車の出現という「伏線」めいたエピソードを絶妙な位置に配置しているのがわかり、作者の「構成力」を知ることができた。

 さて、今回の単行本には描き下ろしの漫画やカットも多数収録されており、そのうち6ページは、なんと「100日目」の後日譚である(オビのアオリの書き方が紛らわしいので、後日譚が28ページあるように勘違いする人もいるかもしれないが、そうではないのでご注意を)。

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