『鬼滅の刃』きっての”かぶき者”宇髄天元 型破りなダンディズムの魅力

『鬼滅の刃』宇髄天元の魅力に迫る

型破りなダンディズムの系譜

 派手な衣装を身にまとい、既成の価値観や権力をものともしない。そんな自由な男たちを、戦国時代から江戸時代初期にかけて、“かぶき者(もの)”と呼んだ。たとえば“大うつけ”といわれた織田信長や、原哲夫が漫画『花の慶次−雲のかなたに−』(原作・隆慶一郎/脚本・麻生未央)で描いた前田慶次あたりの“かぶき”ぶりがよく知られているところだと思うが、この「粋」とも「非常識」ともとれる型破りな“男の美学(ダンディズム)”には、ルーツがある。

 「近日婆佐羅(ばさら)と号し、もっぱら過差を好み、綾羅錦繍、精好銀剣、風流服飾、目を驚かさざるなし。すこぶる物狂いというべきか」。これは『建武式目条々』にある一文だが、ここに出ている“ばさら”というのがそれだ。有名なのは、佐々木道誉、土岐頼遠、高師直といった『太平記』のスターたちで、“ばさら大名”とも呼ばれた彼らは、“かぶき者”同様、奇抜な服装と傍若無人な振るまいを好み、既成概念にとらわれることなく己(おのれ)を貫き、乱世を生きた。

 いずれにしても、こうした反骨的な生き方は、誰もが憧れても実際にはなかなかできるものではない。だからこそ歴史上の人物にせよ、フィクションのキャラクターにせよ、この手の異形の伊達(だて)男たちが昔から大衆の人気を博してきたのだといえるだろう。

 さて、ここで話を吾峠呼世晴のヒット作『鬼滅の刃』に移したい。同作の主要キャラの中にも、“かぶき・ばさら”的な生き方をしている豪快な男がいるのに、『鬼滅』ファンならもうお気づきだろう。そう、鬼狩りの組織「鬼殺隊」隊士の最高位――「柱」のひとり、「音柱」の宇髄天元である。

 鎖につながれた2本の太刀を背負い、左目の周りに奇妙な模様のメイクをして、複数のアクセサリーを身につけた天元のパンキッシュなスタイルは、まさに“かぶき者”。だがその派手な装いの裏には、かつて彼を育てた非情な(そして地味な)「忍(しのび)」の一族への反発心があるのだと思われる。また、メイクを落とせば美形で、タフな肉体を持ち、おまけに3人もの「くの一(女忍者)」の妻がいるというのだから、善逸(=主要キャラのひとり)ならずとも、誰もが最初は天元のことをいけすかないヤツだと思うことだろう。だが、物語を読み進めるうちに、読者はきっと彼のことが好きになる。

 たとえば、天元独自の考え方として、「命の順序」というものがある。具体的にいえば、3人の妻の命が一番で、次が堅気の人間たち、自分の命は最後でいい、というものだが、この、「他者の命を大事にする」態度は目下(めした)の人間に対しても同様で、これから戦う敵がどうやら強力な上弦の鬼らしいとわかるやいなや、彼は部下の炭治郎(=主人公)たちに「ここから出ろ」と即座に撤退を命じるのだった。「恥じるな。生きてる奴が勝ちなんだ」。

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